2015 Fiscal Year Annual Research Report
J. S. ミルの政治思想: リベラリズム、功利主義、共和主義の三つの観点から
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15J02267
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
村田 陽 同志社大学, 法学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | J. S. ミル / 功利主義 / リベラリズム / 卓越主義 / 包括的リベラリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、J. S. ミルの政治思想におけるリベラリズム、功利主義、共和主義について主に理論的解釈の立場から分析を行った。そして、それぞれの概念の関連性に着目し、「包括的リベラリズム」として整合的な解釈の可能性を模索した。そのために、それぞれの概念を理論的側面と歴史的側面に分離したうえで分析を行うという作業仮説を導入した。 まずリベラリズムと功利主義に焦点を絞り、これらの理論的側面についてテクスト研究の手法によってさらなる分析を実施することで、ミルの政治思想の根幹において「功利性概念の転換」というモメントが強く働いていることを明らかにした。この点に関して、ミルにおける「功利性概念の転換」を「包括的リベラリズム」として再検討し、論文として発表した(「J. S. ミルにおける功利性概念の転換:「包括的リベラリズム」の生成と構造」(『同志社法学』第381号、2016年3月))。 以上の研究から、ミルの政治思想に通底する理論的枠組みは「卓越主義のリベラリズム」である側面が強調された。この点については、J. ロールズのミル解釈を手掛かりに分析を行い、本年度以降に論文として完成させる予定である。 卓越主義のリベラリズムという枠組みから、ミルの共和主義との関連が次の研究課題として浮上した。また、歴史的解釈との関係性を追求する必要も確認された。そのため、歴史的観点からもミルの政治思想を再構成するにあたり、ミルが古代アテネの政治に傾倒していたことを歴史的コンテクストの内部において検討した。そのうえで、ミルが生きた時代である19世紀ブリテンへいかに古代の政治思想を導入しようとしたのかについての理論的研究を行い、学会発表を実施した(日本イギリス哲学会第40回総会・研究大会、個人研究報告「J. S. ミルと古代ギリシアとの「対話」」、2016年3月29日、学習院大学)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況が「おおむね順調に進展している」と捉えられる理由としては、当該研究課題のテーマであるリベラリズム、功利主義、共和主義に関する分析枠組みを獲得できた点にある。ミルの政治思想の全体像の中で、主要な働きを担う以上3つの概念であるが、これらの関係性はミルの古典古代論受容という思想史的背景によって説明される可能性が高いことが、平成27年度の研究を通じて明らかになった。つまり、ミルの政治思想を捉えるための枠組みとして、ミルと古典古代論(特に古代アテネの政治に関するミルの議論)が提示されるといえる。この研究結果に至る過程までの進捗状況を以下具体的に示す。 リベラリズム、功利主義、共和主義は、一般的には理論的背景や特徴を異にする別々の概念として捉えられることが多い。ところが、ミルの政治思想にはこれらが混在している点が見受けられる。まず、当該年度の研究においてこの「混在」を理論的に分析した。 そのうえで、先行研究において指摘されてきたミルのリベラリズムの功利主義の関係性について、当該研究では「功利性概念の転換」というミル特有の政治思想的なモメントを中心に検討した。この検討より明らかになった点は、ミルの政治思想において「卓越主義」という特徴が傑出していることである。 卓越主義の理論は、古代ギリシアの哲学に源泉を持ち、ミル自身、幼少期より古代ギリシアの著作に慣れ親しんでいた。思想家として成熟する過程においても、ミルは古代ギリシアの思想に傾倒しており、このようなミルの姿は、彼の政治思想を分析するにあたって看過されてはならないという結論に至った。卓越主義は、ミルのリベラリズムや功利主義のみならず共和主義にも付随する概念であり、ミルの政治思想全体を解き明かすキーワードである可能性が強いといえる。よって、現在までの進捗状況はおおむね順調であると解される。
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Strategy for Future Research Activity |
ミルの政治思想を研究するにあたり、主たる方法として哲学的・理論的再構成と歴史的再構成の二種類があげられる。哲学的・理論的再構成が、テクスト文書の分析を行うのに対して、歴史的再構成の立場は、その思想や理論が登場した時代のコンテクストを明らかにすることで研究を行う。当該研究課題を達成するためには、以上二つの方法論を実施することが求められるといえる。 研究の推進方策について研究方法の観点から考察すると、平成28年度では歴史的再構成の立場を重視する必要があるといえる。平成27年度は、当該研究課題について主に理論的な立場から研究を実施した。そのため、当初予定していたイギリスでの資料収集は見送ることとし、本年度に実施予定である。ミル研究の場合、ミル自身の残した主要なテクスト(著作・論考・新聞記事・書簡など)のほとんどがトロント大学出版の『ジョン・スチュアート・ミル著作集』に所収されており、資料的な整備は完了しているといえる。しかし、ミルの歴史的再構成を実施するにあたり、ミルだけではなくミルの同時代人らのテクストや資料を検討することが求められる。 次に、研究内容の観点から今後の推進方策を述べる。昨年度の研究において、ミルの古典古代論が彼の政治思想において大きな影響を与えている可能性が浮上した。そのため、本年度を通じて、ミルの政治思想の特徴であるリベラリズム、功利主義、共和主義に関して、彼の古典古代論の受容という視点を中心に研究を実施する。ミルの古典古代論は、彼の主要著作において大々的に取り上げられてはおらず、著作以外の論考や自伝において取り上げられることが多い。よって、ミルの古典古代論の内実を探求するためには、同時代人との論争やその受容過程をより緻密に分析しなければならない。この点に取り組むためにも、前述した歴史的再構成の方法論を活用することで、本年度の研究を実施していく。
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Research Products
(2 results)