2016 Fiscal Year Annual Research Report
環境情報および他者理解を踏まえた教示行動の初期発達:乳幼児期からの実証的検討
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15J02341
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
孟 憲巍 九州大学, 人間環境学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 情報提供 / 自発的 / 他者理解 / 乳児期 / コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者は今年度、本研究課題の一環である「他者間の注意関係への観察が乳児の視線追従に及ぼす影響」との実験結果を解析・考察し、その研究成果となる論文を国際誌Frontier in Psychologyにて発表した。報告者はこれまで、1歳半児が他者の心的状態を推測した上で、他者にとっての「新しいもの」を自発的に指差して教える可能性を明らかにしてきた。1歳半児を対象とした理由は、指差しが1歳頃から見られることと、他者の心的状態への理解が1歳半頃からある程度の成熟度を見せることであった。しかしながら、教示行為を含めた社会的な関わりに関しては、1歳半とそれ以前の乳児とが質的に違うかどうかは分かっていなかった。今回の研究では、これまで用いた文脈-乳児が知っているが他者が知らない-ではなく、「私(たち)が知っているが、あの人だけが知らない」との文脈を設定し、それを観察している乳児の視線行動を調べた(Tobii TX300)。具体的には、生後9ヶ月、1歳、1歳半の赤ちゃん(各24名)に2種類の動画を見てもらった。ひとつは、ふたりの女性が互いに顔を見合わせてから、一方(行為者)が、前にある2つのおもちゃのうちひとつに視線を向けるもの(顔合わせ条件)、もうひとつは、ふたりが互いに顔をそむけた後に一方がおもちゃに視線を向けるものであった(顔そむけ条件)。主な結果として、9ヶ月・1歳児はどちらの条件においても「行為者が見たおもちゃ」に視線を向けていたが、顔そむけ条件の1歳半児だけが、行為者の視線を追うのでなく、行為者の隣にいる大人により視線を向けていた。各時間相の注視行動を検討した結果、生後1歳半ころから赤ちゃんは、自他間および他者間の認識論的な差異を踏まえ、「気づいていない」他者に自発的な関心を寄せると解釈することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告者は、本研究課題である「環境情報および他者理解を踏まえた教示行動の初期発達」を検討することを目的に、まずは「1歳半児は他者にとっての新しい情報を自発的に指差して教える」可能性を明らかにし、他者理解を踏まえた教示行為の存在を実証的に検討した。具体的には、他者の見えない場所(背後)に、その他者が知っているもの(乳児と一緒に遊んだもの)と知らないもの(乳児だけが遊んだもの)とが出現した際に、乳児は他者が知らないものに対してより高頻度に指さすことを実験的に証明した。 その後、社会的インタラクションに関する感受性における1歳半とそれ以前の乳児とが示すだろう質的な違いに焦点を当て、「他者間の注意関係への観察が乳児の視線追従に及ぼす影響」との研究を行い、その具体的な初期発達過程を明らかにした。具体的には、 正面にある2つのおもちゃのうちのひとつに視線を向ける女性 (行為者)を隣の女性が見ている動画 (顔合わせ条件)、および見ていない動画 (顔そむけ条件) を9ヶ月、1歳と1歳半の乳児 (各24名) に見てもらった。乳児の注視行動を解析した結果、9ヶ月児と1歳児はどちらの条件においても「行為者が見たおもちゃ」に視線を向けていたことに対し、1歳半児は顔そむけ条件では、行為者の視線を追うのでなく、行為者の隣にいる大人により視線を向けていたことを明らかにした。各時間相の注視行動を検討した結果、生後1歳半ころから赤ちゃんは、自他間および他者間の認識論的な差異を踏まえ、「気づいていない」他者に自発的な関心を寄せると解釈することができた。 2つの研究成果は論文として国際的にも発信されているほか、一般向け研究結果報告として、オンライン雑誌Academist JournalやNHK報道局、朝日新聞などで報道されるなど、社会的な還元もおこなっている。以上のように、研究の進捗は順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
報告者はこれまでの研究を通して、ヒトが1歳半頃から他者の注意状態と知識状態に感受性を示し、「気付いていない」他者に自発的に気遣うだけではなく、実際のインタラクションでは他者に新たな情報を自発的に「教える」ことを示すデータを国際的に発信した。それらの研究成果は、乳児が(大人の要求を読み取るのではなく)自発的に「教えたがる」傾向を持つこと、さらに、他者の知覚・知識状態を踏まえて「何について教えるか」を柔軟に変化させていることを示し、相互的コミュニケーションの担い手としての乳児という新たな展望を実証的に提示したと考えている。 しかし、これまでの研究で見られた乳児の行動様式は、他者に情報を提供しようとする動機に基づくものだろうか。特に指差し行動の動機に関しては、研究者によって考え方が違う。大まかに分類すると、「利他的動機」ー他者の心の状態を補完するため、と「利己的動機」ー対象物に関するコメントを他者にしてもらうためなどが言われている。そこで報告者は、それらの行動傾向の動機と神経基盤の解明に向けて、「教える」際に見られる共感的覚醒 (例えば瞳孔の拡張)と脳報酬系の活動を指標とした研究を進めている。具体的には例えば、他者の背後に物体が出現した際に、乳児がその物体を指差したことでその他者が気づく条件と、第三者の指差しでその他者が気づく条件とを経験している乳児の瞳孔拡張程度を比較することなどを計画している。
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Research Products
(13 results)