2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15J02342
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古川 智宏 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | MnSODの破壊 / スーパーオキシドとDON生産の関係 / ジオクタチンの結合タンパク質同定 |
Outline of Annual Research Achievements |
カビ毒の中でも、Fusarium属の生産するデオキシニバレノール(DON)およびAspergillus属の生産するアフラトキシン(AF)による穀類の汚染は世界中で甚大な経済被害をもたらしており、対策が急がれている。汚染防除法としてカビ毒生産の特異的阻害剤の利用が期待され、DON生産阻害剤としてプレコセンIIが、AF生産阻害剤としてジオクタチンが見出されている。これらの薬剤の作用機構を明らかにすることは、薬剤の実用化のみならず、未解明の部分の多いDONおよびAF生産の分子機構を解明する手がかりになると考えられる。 前年度までの研究から、プレコセンIIはミトコンドリア外膜のチャネルタンパク質に結合し、ミトコンドリア内のスーパーオキシドを増加させることでDON生産を阻害することが示唆されていた。本年度において、DON生産菌Fusarium graminearumのミトコンドリア内で働くスーパーオキシド消去酵素であるMnSOD1およびMnSOD2の破壊株の作製を完了した。さらに両破壊株において、ミトコンドリアスーパーオキシドの増加、DON生産調節因子の発現減少、DON生産量の減少を確認できた。これらの効果はプレコセンIIによる影響と類似しており、プレコセンIIのスーパーオキシド増加によるDON生産阻害メカニズムが支持されるとともに、ミトコンドリア内の活性酸素が核内の転写制御系に影響を与えていることがわかり、DON生産分子機構を理解する上で新規の知見が得られたと言える。 ジオクタチンの作用機構に関する知見はわずかだったが、ジオクタチン誘導体を共有結合させた磁気ビーズを調製し、これを用いてAF生産菌から抽出したタンパク質よりジオクタチンの特異的結合タンパク質を精製し、タンデム質量分析計により同定を行った。これにより、ジオクタチン作用メカニズムの解析に繋がる大きな成果が得られたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Fusarium graminearumにおいて、ミトコンドリア内のスーパーオキシド消去酵素であるMnSOD1およびMnSOD2の破壊株の作製を完了し、両破壊株においてミトコンドリアスーパーオキシド量の増大、DON生産量の減少、DON生合成酵素発現調節因子Tri6の発現減少を確認できた。ここから、ミトコンドリアスーパーオキシドとDON生産の関連が明確に示され、プレコセンIIのDON生産阻害作用がスーパーオキシド増大に起因するとの説が支持された。更に、プレコセンIIの添加によりミトコンドリア由来の代謝物質であり、DON生産の出発物質となるアセチルCoAの減少が確認でき、プレコセンIIのミトコンドリアに対する作用とDON生産阻害を関連づける手掛かりを得ることができた。しかしながら、現段階ではプレコセンIIによるスーパーオキシド増大作用とDON生産阻害を結びつける因子、およびシグナル伝達機構は明らかにできておらず、当初の目標の途中段階となっている。今後はアセチルCoAを含むミトコンドリア代謝物質量の変動とDON生合成の関係、さらにDON生合成調節因子の修飾の可能性等を調べていく必要がある。以上から、プレコセンIIの作用機構解析の進捗状況としてはやや遅れていると言える。 Aspergillus flavusのAF生産を阻害するジオクタチンの作用機構の解析に関しては、ジオクタチンと相互作用するタンパク質を分離するためのジオクタチン固定化ビーズの調製、調製したビーズによるジオクタチン結合タンパク質の精製、さらにタンデム質量分析計を用いたジオクタチン結合タンパク質の同定を達成できた。今後結合タンパク質を介したジオクタチンの作用メカニズムを明らかにしていく必要があるが、進捗状況としては順調に進展していると言える。 以上から、全体としておおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
プレコセンIIの作用がDON生産阻害に至る道筋を明らかにする。プレコセンIIはミトコンドリアのスーパーオキシドを増大させるが、これによりアセチルCoAを始めとした細胞内メタボロームに大きな変動が起きている可能性があり、これがDON生産減少に結びついている可能性がある。そこでミトコンドリアに関連する代謝物質の解析を行い、変動する物質を明らかにするとともに、代謝物質とDON生産調節因子との関係を調べる。また、DON生合成酵素発現調節因子Tri6はTri6自身の発現をポジティブに制御していること、およびTri6はリン酸化等の修飾を受け活性が調節されていることが示唆されている。プレコセンIIの添加はTri6の発現を減少させるが、これはTri6の修飾状態が変化していることによる可能性がある。そこでTri6の特異的な抗体を作製し、プレコセンIIの添加によるTri6の状態変化を解析するとともに、この変化を前述した代謝物質の変化と関連づける。 以上の実験及び関連する実験をもとに、プレコセンIIの作用とDON生産阻害の関係をつまびらかにする。 ジオクタチンに関しても同様に、AF生産阻害機構の解明を目指す。ジオクタチンの結合タンパク質として、ミトコンドリアマトリックスに局在すると考えられるClpプロテアーゼの触媒サブユニットが同定されたが、ClpプロテアーゼとAF生産の関連を示す報告は存在せず、未知の伝達メカニズムによりジオクタチンの作用がAF生産阻害に結びついていると考えられる。Clpプロテアーゼはミトコンドリア内でミスフォールドしたタンパク質の分解に関与しているとの報告があるが、ジオクタチンはClpプロテアーゼを阻害することでミトコンドリア内にミスフォールドタンパク質を蓄積し、ミトコンドリア機能を阻害している可能性が考えられる。この可能性を検証しつつ、AF生産阻害との関連を明らかにする。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article] Search for aflatoxin and trichothecene production inhibitors and analysis of their modes of action2015
Author(s)
Shohei Sakuda, Tomoya Yoshinari, Tomohiro Furukawa, Usuma Jermnak, Keiko Takagi, Kurin Iimura, Toshiyoshi Yamamoto, Michio Suzuki, Hiromichi Nagasawa
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Journal Title
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
Volume: 80(1)
Pages: 43-54
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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