2015 Fiscal Year Annual Research Report
iPS細胞を用いた血管構造を有する立体的な肝細胞組織構築
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15J02349
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
榎本 詢子 横浜国立大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 細胞分離 / オリゴペプチド / アプタマー / 電気化学細胞脱離 |
Outline of Annual Research Achievements |
再生医療の分野では、iPS細胞などの多様性幹細胞から目的の臓器細胞へと分化誘導を行う試みが行われている。しかしながら、特定の臓器細胞へ分化させた細胞群に未分化な細胞が残存することによって、体内で腫瘍を形成することが危惧されている。すなわち、必要な、あるいは不要な細胞を分離する技術が細胞移植や再生医療の分野において強く求められている。そこで、本研究では、所属研究室で開発した電気化学的原理に基づいた電位印加によって培養表面から細胞を素早く脱離する技術を応用し、選択的な細胞分離法の確立に取り組んだ。これまで、オリゴペプチドの片末端には、多くの細胞が認識できる細胞接着アミノ酸配列(RGD)を配置していたが、本研究ではこれに代わり、アプタマーを配置した。これによって、細胞集団の中から特定の細胞を表面に接着させるのである。ここでは、モデル細胞として肝癌細胞と特異的に結合するアプタマーを用いた。この基板上に肝癌細胞と正常肝細胞を同数播種し、接着したそれぞれの細胞数をカウントし、細胞選択性を評価し結果、98%の選択率で肝癌細胞を選択的に分離できることを示した。さらに、肝癌細胞を金基板に選択的に接着させた後、-1.0 V (vs. Ag/AgCl)を5分間印加し自己組織化単分子膜を脱離させることで、接着した細胞を脱離・回収することができた。さらに回収した細胞の機能評価を行ったところ、通常培養で用いられる酵素処理による回収法と比べて、同等の生存率・機能を示すことを確認した。 これらの成果は、生物工学会誌に掲載され、また再生医療分野における世界最大級の学会であるTERMIS World CongressでのTERMIS Travel Award受賞の他、国内外で4件の受賞に直結した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、細胞集団の中からターゲット細胞を分離・濃縮し、さらに非侵襲的に脱離・回収する基盤技術の確立に取り組んだ。具体的には、自己組織化オリゴペプチドとアプタマーを設計し、ターゲット細胞を選択的に接着させ、脱離させることができることを示した。さらに複数回繰り返すことで、ターゲット細胞を濃縮できる可能性を示した。 これらの成果を国内・国際会議で発表し、国際会議では2件、国内会議で3件の受賞を受けるなど、一定の成果を挙げたといえる。 また、細胞分離効率の更なる向上を目指し、分子動力学計算の導入を発想するなど、異なったアプローチからの研究の進展も試みている。以上の業績から、今後も更なる研究の進展が望めると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
さらなる分離効率の向上を目的とし、分子動力学計算によってアプタマーとオリゴペプチドなどの分子設計を行う。ここで重要なのは、溶液中では分子同士が凝集せず、基板表面上には分子が密に自己組織的化することである。特に、非特異的な細胞接着を抑制することは、細胞の選択率を向上させるために重要である。しかしながら、アミノ酸やアプタマーは正または負に帯電しているものも多く、その組み合わせは無限大である。そこで、シミュレーションとそのトレーサー実験によって、最適な配列を絞り込む。 次に、培地流れによる剪断応力を均一に付加できるマイクロ流路デバイスを設計し、作製する。そこで、細胞が流路底面に接触しつつ、一定の剪断応力を受けるよう、有限要素法を用いたシミュレーションとトレーサー実験により実現する。これによって、ターゲット細胞のアプタマーに対するアフィニティーの僅かな違いで細胞分離できる可能性があり、基板上での細胞分離効率そのものの向上が期待でき、ターゲット細胞の濃縮分離、回収が可能であることを示す。そして、これら2つの技術を融合し、マイクロ流路内に複数設けた電極表面において、ターゲット細胞のみを分離・濃縮・回収可能であることを示す。
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Research Products
(14 results)