2015 Fiscal Year Annual Research Report
ヘーゲルの主体形成論―承認論の社会批判的機能についての研究
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15J02364
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
岡崎 龍 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | ヘーゲル / 社会思想 / 承認 / 批判理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヘーゲルの『精神現象学』における承認と社会批判という両契機の統一的把握という本研究の目的を達成するために、平成27年度は、以下四つの観点から複層的に研究を遂行してきた。 第一に、『精神現象学』のテクスト解釈として、同書の「事そのもの」概念を精査し、日本ヘーゲル学会の公開ワークショップにおいて「〈事そのもの〉の構造と射程」と題して報告した。法政大学の滝口清榮氏、同志社大学の濱良祐氏とともに同概念の構造を論じ、フロアとの質疑応答を通して、主体の自己喪失と社会の変容との相関性についての新たな視座を得ることができた。 第二に、本研究が着目する方法論の一つである社会構築主義に対する批判的検討を行っているドイツの哲学者マルクス・ガブリエルの著書を邦訳し、訳者解説を執筆した。平成27年11月の同訳書刊行以降に書評等で寄せられた批判的見解などを通じて、本研究に関わる方法論的前提を問い直す重要な契機となった。 第三に、『精神現象学』とならぶヘーゲルの社会思想的著作の一つである『法の哲学』における「君主権」論を検討し、従来同概念に与えられてきた「リベラル」、「復古主義的」という二つの相反する見解の綜合を試みた。これを通じて、ヘーゲル哲学がもつ社会批判の射程をヘーゲルの著作全体を通じて捉え返す見通しを得た。なおこの内容は平成28年度中に共著書として公刊される予定である。 第四に、『精神現象学』の主体形成論をフランス現代思想との関連で捉え返しているアメリカの思想家ジュディス・バトラーの学位論文『欲望の主体』の翻訳に取り組み、本研究の重要な先行研究の一つをより正確に捉え返す契機を得た。同訳書は平成28年度中に刊行予定である。 以上の四つの側面から、本研究の基礎的側面(一、四)を盤石なものとするとともに、さらに広い視野から本研究を拡張するための視野を獲得することができた(二、三)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
『精神現象学』のテクスト読解という本研究の基礎については、質的には予定通り進行している。ただし、『精神現象学』にとどまらず広くヘーゲルの著作全体を踏まえて同書の意義を捉え返すとともに、現代思想の潮流の視角からヘーゲルの先進性を示すという必要に迫られ、先述のように複層的な視野から研究を遂行したため、『精神現象学』そのものの読解は量的観点からすれば十分に時間を割くことができなかった。ただしこのことは本研究の総体からみれば、むしろ重要な示唆を与えるものであり、積極的なものと捉えることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年7月以来、海外研究指導の委託として、ドイツ連邦共和国のフンボルト大学ベルリンにおいてアンドレアス・アルント教授のもとで研究を行っており、平成28年度も引き続きベルリンにおいて研究を行う予定である。 平成27年度に行ったテクスト分析の内容を、平成28年5月にルール大学ボーフムで開かれる国際ヘーゲル学会においてDas Problem der Selbstkritik in Hegels Phaenomenologie des Geistes: zum kritischen Potential der Sache selbstとして報告するとともに、日本の学会への投稿論文の執筆を予定している。 また、フンボルト大学内部だけでなく、デューイスブルク・エッセン大学のダニエル・ゲヒト氏らと研究協力体制を築くなど、海外研究ネットワークの構築を進める予定である。
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Research Products
(5 results)