2015 Fiscal Year Annual Research Report
胃内の食物流動の数値シミュレーションによる機能性ディスペプシアのメカニズムの解明
Project/Area Number |
15J02376
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
宮川 泰明 東北大学, 医工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 胃内容物攪拌 / 蠕動運動 / 計算生体力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
胃の主な機能は食物の貯留・攪拌・排出の3つであると言われている.胃の攪拌機能によって消化液と食物が混合され,また食物同士がこすり合わされ小さくなるため,攪拌機能は胃内の消化と密接に関連している.胃内の攪拌は蠕動運動と呼ばれる胃壁の運動によって引き起こされるが,加齢やストレスなどによってこの運動機能が低下すると,機能性ディスペプシア(機能性消化不良)といった疾患が起きることが知られている.しかしながら,どの運動機能の低下がどのように攪拌機能を変化させるのかについては明らかにされておらず,機能性ディスペプシアの発生メカニズムは未だ不明である.そこで本研究課題では,コンピュータシミュレーションを用いて胃内の流れを再現し,胃壁の運動機能が変化した時にどのように胃内の流れ場が変化するのか,流れ場の変化がどのように胃内容物の攪拌に影響するのかを明らかにすることを目的としている. まず,本研究では胃壁の運動と胃内容物攪拌の関係を解明するための新しい計算力学モデルを構築した.本研究では,移動壁境界条件としてよく用いられる埋め込み境界法と,混相流計算でよく用いられるVolume of Fluid法という2つの手法を組み合わせることによって胃の計算力学モデルを構築した. 次に,構築した計算力学モデルを用いて胃壁の運動機能と胃内容物攪拌の関係に関する調査を行った.具体的には,胃壁の運動機能のうち,蠕動運動の伝播速度と発生周期を変化させ,胃内容物の粘度を変化させたときに攪拌がどのように変化するかを調査した.胃内容物は,単位時間当たりに通過する蠕動の数が多いほどよく攪拌されることを示した.一方,1周期当たりの攪拌量は胃壁の伝播速度と胃内容物の動粘度,胃の平均管直径から決まる慣性力と粘性力の比であるレイノルズ数によって表されることが明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では胃壁の運動と胃内容物攪拌の関係を解明するための新しい計算力学モデルを構築した.胃は複雑な形状をしており,蠕動運動時には複雑に運動している.また,胃内容物は気・液・固相から成る混相流である.このため,胃の計算力学モデルには,複雑形状かつ移動壁境界かつ混相流といった複雑なモデルが必要になる.本研究では,移動壁境界条件としてよく用いられる埋め込み境界法と,混相流計算でよく用いられるVolume of Fluid法という2つの手法を組み合わせることによって胃の計算力学モデルを構築した.また,計算の高速化のためにGPU(Graphics Processing Unit)を用いて計算を行っている.このモデルにより,実形状を用いた胃内の気液混相流計算が世界で初めて可能になった. 次に,構築した計算力学モデルを用いて胃壁の運動機能と胃内容物攪拌の関係に関する調査を行った.具体的には,胃壁の運動機能のうち,蠕動運動の伝播速度と発生周期を変化させ,胃内容物の粘度を変化させたときに攪拌がどのように変化するかを調査した.胃内容物攪拌量を定量化するための新しい手法を提案し,その指標を用いて胃内容物攪拌量の評価を行った.胃内容物は,単位時間当たりに通過する蠕動の数が多いほどよく攪拌されることを示した.一方,1周期当たりの攪拌量は胃壁の伝播速度と胃内容物の動粘度,胃の平均管直径から決まる慣性力と粘性力の比であるレイノルズ数によって表されることが明らかになった.レイノルズ数が大きくなるにつれて蠕動運動1周期当たりの攪拌量が大きくなり,レイノルズ数が十分小さく,胃内容物流れをストークス流れとみなせる場合は胃内容物攪拌量は一定であることが明らかになった.また,胃内容物攪拌量は蠕動間の距離によっても変化することを示した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,胃内容物の排出に関する研究を行っていく予定である.胃から十二指腸への胃内容物の排出量などは実際に測定することができるが,胃と十二指腸の間の圧力差,幽門開閉のタイミングなどは測定が難しく,個人差も大きいため不明である.そこで,まず現在の計算力学モデルに幽門,十二指腸を加え胃内容物排出モデルの構築を行う.構築した計算力学を用いて,胃と十二指腸の間の圧力差,幽門の開閉量,開閉のタイミングなどを入力パラメータとして与え,胃から十二指腸への排出量を出力パラメータとし,実際の臨床の場で測定されている胃内容物排出量などと照らし合わせることによって,圧力差や幽門の開閉量,開閉のタイミング等のパラメータを同定する.次に,同定したパラメータを用いて,胃壁の運動機能を変化させた時に排出量がどのように変化するのかを明らかにする.
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Research Products
(3 results)