2015 Fiscal Year Annual Research Report
行動経済学的知見を活かした新たなインセンティブ制度の開発と環境保全政策への適用
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15J02390
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鈴木 康平 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | フィールド実験 / 協力行動 / 社会的規範 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、これまでの伝統的な経済学で用いられてきた「経済的インセンティブ」とフィールド調査や行動経済学によって示唆されている「社会的インセンティブ」を融合させることで、実際の政策へ適用可能で、より効率的な自然環境保全を達成するインセンティブ制度を構築することである。本年度は政策メカニズムに応用する社会的インセンティブの選定に焦点を絞り、以下の2つの研究を主に行った。 (1)農村地域における慣習や規範が住民間の協力行動に与える影響に関するフィールド実験研究 社会的規範は人間の意思決定に深く関わっていることが明らかになっており、また、経済実験の被験者の意思決定は日常生活における意思決定と何らかの関係があることが示唆されている。そこで、社会的規範が協力行動に影響を及ぼすか否か、それらが経済実験という統制された環境の中で観察できるかどうかを検証するために、愛媛県久万高原町の住民を対象にフィールド実験を行った。実験の結果、経験や規範を共有しているグループのほうがそうでないグループよりも協力率が高くなることが明らかになった。 (2)町内会におけるルールが協力率に及ぼす影響に関するアンケート調査 本研究では、(1)の研究をさらに発展させ、町内会において定められているルールなどが協力率に及ぼす影響があるかどうかを検証する。町内会において定められているルールはその町内会の社会的規範と捉えることができ、どのような社会的規範をもっているグループで協力率が高まるかを検証することが本研究の狙いである。町内会長に対するアンケート調査と(1)のフィールド実験の結果を合わせて、計量分析を行った結果、一年間の寄り合いの回数が多いこと、寄り合いにおける議決方法が多数決や独裁ではなく議長が提案した内容を他町内会員が承認する方法で決定すること、が協力確率を高めるということが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究計画では、「森林所有者がもつ行動経済学的性質を利用することで、少額の経済的インセンティブでも環境保全を達成できる制度を構築する。フィールド(愛媛県久万高原町を予定)での聞き取り調査によって、経済的インセンティブと融合させることで相乗効果的に効用を高められるよう社会的インセンティブを抽出する。」ことが大きな目的であり、27年度の研究実績から、その目的は概ね達成されたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
愛媛県久万高原町におけるフィールド実験およびアンケート調査研究から、小さなコミュニティ内で共有されている社会的規範や経験が協力率に影響を及ぼしていること、協力率をたかめるコミュニティの特徴として、コミュニティ内でのコミュニケーションが活発であること、コミュニティの意思決定方法が多数決や独裁ではなく議長が提案した内容を他メンバーが承認する方法で決定することが重要であると示唆された。すなわち、共有されている規範・経験・ルール・コミュニケーションが社会的インセンティブとして有効だと示唆された。本年度はこの社会的インセンティブを組み込んだ政策メカニズムをデザインし、実験研究を通じてより効果的な環境保全メカニズムを提案する。
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