2015 Fiscal Year Annual Research Report
電源不要の自家発電型センサ端末を用いたワイヤレス監視システムの新規開発
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15J02426
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山本 雄大 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 振動エネルギハーベスティング / 圧電素子 / デジタルプロセッサ / マルチ振動モード / 無線通信 / 構造ヘルスモニタリング |
Outline of Annual Research Achievements |
一自由度のバネマス振動系(第一振動実験系)を対象とし,デジタル制御ハーベスタを構成した.電気回路のスイッチングによるハーベスティング性能向上手法を実現するため,詳細な回路図の設計と製作を行った. 本研究の主眼となるデジタルプロセッサを用いた「構造状態推定」と「スイッチ制御」の構築を行った.構造物の物理挙動と回路の電気挙動を同時に解析するハーベスティングシステム全体の数値シミュレーションプログラムを作製した.状態推定にはカルマンフィルタを用いることで,ノイズに強い状態観測を可能とした.センサによる直接の計測が困難な速度や加振力などの状態量を推定することで,本研究の目的である構造の健全性診断に対して,有益な情報が得られる.スイッチ制御には,アクティブ振動制御の速度フィードバック制御を元にしたオンオフ制御則を構築し適用した. 数値シミュレーションにおいて,カルマンフィルタおよびスイッチ制御則に用いるフィードバックゲインの十分な設計を行った後,その設計ゲインを用いたプロセッサ駆動プログラムを作製し,実際にプロセッサを用いたデジタル制御ハーベスタの実験を行った.作成したプログラムを含む発電システムは,正常に動作し,外部へ電力供給が可能である事を確認した. 自然界に存在する,より複雑な振動からの効率的ハーベスティングに向けて,多自由度振動への対応が必要である.そこで,第一振動実験系を二自由度構造物へと変更した.多自由度振動への適応は,電気回路を変更せず,スイッチの制御プログラムを変更する事で行う.複数の振動モードを推定するためカルマンフィルタの次元を拡張し,またスイッチ制御則の規範を速度フィードバック制御から線形二次レギュレータ(LQR)へと置き換えた.実験により,2つの振動モードが混ざり合った振動に対しても,スイッチ式のハーベスティング手法が有効であり,電圧の増幅が行われることを確かめた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は,計画していた「一自由度系でのデジタル制御ハーベスタ構築」,「数値シミュレーションの製作」,「多自由度系への拡張」を十分に達成する事が出来た.また,加えて以下の点で計画以上の成果を得た. (新たな課題の発見)振動エネルギハーベスティングの実験では,加振器を用いて,構造物を強制振動させる.本年度の研究により,構造物に与える振動の加振条件を,振動変位を一定とするのか,加振力を一定とするのかという実験条件の違いが,結果として発電量に与える影響が大きいことが分かった.発電性能の評価の際に,これまでは振動変位を一定とする条件での評価を行ってきたが,加振力が一定である場合についても評価が必要であると考え,スタンダードハーベスタとの比較評価を再度行った. (新手法の提案)構造物に働く加振力が一定であるとした場合に,本手法が用いるスイッチングによる圧電電荷の制御は,振動する構造物に対して振動抑制の効果を示し,これは発電量に対してマイナスの効果を与え得る.そこで,研究員は本手法のスイッチ制御則を変更し,スイッチングの回数を変化させることで,発生電圧増幅というプラスの効果と振動抑制というマイナスの効果のバランスを取る最適制御則を考案し,その発電性能について実験により評価を行った. (実験デバイスのブラッシュアップ)本発電システムは発電量の一部を,回路の制御のために消費し,その見返りとしてより大きな発電量を得る.したがって,電子部品の省エネルギ化が進むほど本システムの優位性は高まる.プロセッサの駆動のためには定電圧源が必要であり,DC/DCコンバータを使用している.以前開発した回路では,2.0V出力のDC/DCコンバータの消費がシステム内の消費電力の大半を占めていた.今回設計した新たな回路では,1.8V出力のDC/DCコンバータを使用しており,大幅な消費電力の削減に成功した.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,「電源不要の自家発電型センサ端末」の実現に向けて,発電部,すなわちデジタル制御ハーベスタの基礎技術構築と,性能向上を主な課題として取り組んだ.翌年度は,無線センサ端末として機能するよう,無線送信部を組み込んだ形での構築に取り組む. 振動エネルギハーベスティングと無線通信の組み合わせとして,限られた通信方式においてデータ量を減らすことで非常に省電力の無線送信機を使用する場合がある.このような手法は,通信システムの構築が難しく,汎用性に乏しい.本研究では,デジタル制御ハーベスタによる比較的大きな発電力とマイクロプロセッサによる高度なデータ処理が可能である.そこで,一般に良く普及している無線通信規格においてデータの転送を行う.これにより,同じ通信規格を使用する様々なデバイスでのデータ受信が可能となり,ワイヤレスネットワークの構築も可能となる. 一般に無線通信を行う場合,データを転送する瞬間に大量の電力を必要とする.振動エネルギのような小さなエネルギをもとに,無線送信機を駆動する場合は,一定時間の間隔をおいて,間欠的に動作させる.本システムはマイクロプロセッサを搭載していることから,間欠的な無線通信の間の振動状態を監視,記録し,必要なデータのみを圧縮して送信する事ができる.これにより,一回の送信あたりの通信電力コストを削減する. 本システムは,ハーベスティングに得た電力を,発電制御システム(主にプロセッサ)の駆動と無線通信の二通りに使用する.ここで,発電制御システムは,構造振動がある限り恒常的に動作し,無線通信は間欠的に動作するため,それぞれの電源電力を貯蔵する蓄電キャパシタを二つに分ける必要がある.そこで,発電制御システムの駆動に必要な電力を一つ目の蓄電キャパシタに確保し,余剰電力のみを二つ目の蓄電キャパシタに供給する,二段式充電の電気回路を構築する.
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Research Products
(7 results)