2016 Fiscal Year Annual Research Report
気相から凝縮するナノ粒子の赤外スペクトル"その場"測定から迫る、星周ダスト形成
Project/Area Number |
15J02433
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
石塚 紳之介 北海道大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 核生成 / 自己組織化 / 赤外分光スペクトル / その場測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
① 液相を経る核生成経路の発見 研究計画に則り,Al2O3,TiO2をモデル物質とした核生成実験を通して核生成プロセスに迫り,気相中での核生成の経路を明らかにした.Al2O3の核生成実験について報告する.Al2O3は,同じ化学組成であっても結晶構造の異なる多形を示す.本研究では,少量の不純物 (Sb,Cr) を加えることで,最終的な多形を制御できることを発見した.核生成過程における赤外スペクトル形状の変化を調べ,最終的な多形に依らず,核生成が準安定相を経る二段階過程であることを示した.第一段階では,準安定相として液体状粒子が気相から核生成する.第二段階では,液体状粒子中で結晶が核生成する.同様の二段階過程は,ケイ酸塩, TiO2の核生成実験でも確認された.核生成時の過飽和度が大きいほど,結晶が直接核生成し易くなる.本研究の核生成時の過飽和度は,星周環境に比べ十分大きいにも関わらず,気相から液体状粒子の核生成が起こった.このことは星周環境でもダストが液体状粒子を経て核生成することを示唆する. ② 自己組織化による融合成長の発見 核生成直後の成長プロセスにおいても非古典的な成長経路について検証した.MoO3の核生成実験について報告する.核生成直後の成長過程における形状の変化を調べ,結晶学的に等価な面でのみ粒子が付着し,融合することを発見した.核生成した粒子に,気相中の分子が1つずつ取り込まれる気相成長を経て,針状の粒子が生成する.針状の粒子は対流中で,結晶の方位が揃った凝集,融合を経て,立方体の粒子へ成長することを発見した.これまで,気相からの粒子生成は,1分子ずつ取り込まれる成長経路,またはランダムな衝突合体が知られていた.本研究では,気相中で自由浮遊している粒子の自己組織化現象を初めて発見した成果は現在,英国王立化学会の出版するNanoscaleに投稿中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画に則って行われたAl2O3,TiO2をモデル物質とした核生成実験に関する論文がそれぞれ,Chemistry of Materials,Journal of Crystal Growthに掲載された.従来,気相から結晶相が直接生成すると仮定されていたが,液体を経る核生成過程を発見し,その普遍性を示したことは想定以上の成果である.さらに,MoO3の核生成実験を行い,気相中でのメソスケールでの結晶の成長メカニズムにおいて,自己組織化現象が重要な役割を果たしていることを発見した.現在成果は,英国王立化学会の発行するNanoscaleに投稿中である.気相中での核生成と成長が古典的な熱力学的手法のみでは説明できない場合があることを一貫して示した.同時に,核生成と成長の経路を "その場" 測定によって直接検証する実験手法を確立したことの意義は大きい. Al2O3に関しては,航空機を用いた微小重力実験も行った.平成27年度に行った,観測ロケットを用いた微小重力実験の結果と合わせ,現在Nature Astronomyにて査読中である.航空機を用いた微小重力実験は,スロベニアのJoseph Stefan Institute, Saso Strum主任研究員と協同で論文の投稿準備を進めている. 以上より,研究の進捗状況としては,想定以上の発展が見られ,期待を上回るペースで進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
ケイ酸塩鉱物 (MgxFeySIOz) は,最も豊富な難揮発性鉱物であり,太陽系の材料にもなる.平成27年度に,Mgケイ酸塩の核生成実験を行った.核生成直後の “できたて” ナノ粒子の赤外分光スペクトルが,年老いた星に普遍的に観測される10 μmバンドを再現することを発見した.10 μmバンドは,最重要な赤外バンドにも関わらず,これまで実験室では再現できていなかった.ケイ酸塩のMg/Fe比によって,10 μmバンドが変化するため,Mg/Fe比が観測を再現する鍵であると考えられていた.本研究では,Feを含まないケイ酸塩が10 μmバンドを再現した.Fe以外の因子が,天体に観測される10 μmバンドの特徴を決定付けていることを示唆している.本研究では,Oのストイキオメトリーに着目し,酸素の不足した環境でのMgケイ酸塩の核生成,成長に10 μmバンドのその場測定から迫った.酸素が十分に存在する環境では,数十から100 nm程度の球形のフォルステライトが生成した.一方,酸素の不足した環境で生成したケイ酸塩は,2種類の自己組織化構造を示した.どちらも数 nmサイズの結晶から成り,透過型電子顕微鏡によって観察された結晶構造はエンスタタイトと合致した.10 μmバンドの特徴も異なり,酸素が十分に存在する環境で生成したケイ酸塩は9.7,10.8 μmに現れる2つのピークが顕著であったのに対し,酸素の不足した環境で生成したケイ酸塩は,10.0,11.4 μmにピークをもつバンド幅の広い,複雑な赤外分光スペクトルを示した.後者の特徴は,彗星に観測される10 μmバンドの特徴と一致しており,本実験における酸素と形態の関係を調べることで彗星のケイ酸塩の起源が解明されることが期待される.
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] Two-Step Process in Homogeneous Nucleation of Alumina in Supersaturated Vapor2016
Author(s)
Ishizuka, S., Kimura, Y., Yamazaki, T., Hama, T., Watanabe, N. and Kouchi, A.
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Journal Title
Chemistry of Materials
Volume: 28
Pages: 8732-8741
DOI
Peer Reviewed
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