2016 Fiscal Year Annual Research Report
タンザニアにおける言語政策と言語態度―学校教育は言語態度にどう影響するか―
Project/Area Number |
15J02518
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
沓掛 沙弥香 大阪大学, 言語文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | タンザニア / 言語政策 / 言語態度 / 教育の自由化 / グローバル化 / 教授用言語 / 英語 / スワヒリ語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、タンザニアにおいて2度の現地調査を行った。一度目は、前年度に行った調査の結果を踏まえた追加調査であり、二度目は都市部の状況を把握するために新しい調査地での調査を実施した。 調査によって、近年の強力なグローバル化の影響下で、英語偏重主義的な言説はタンザニア南部においても広がりを見せていることが明らかになった。しかし、実際的な英語へのアクセス権には社会的階層によって大きな偏りが見られる。また、都市部と農村部においては、そもそもアクセスできる社会資本に絶大な格差がある。このような状況が人々の意識の中で問題化し始めているということが確認された。階層を越えたスワヒリ語の共有によって覆い隠されてきたエリートと非エリート間の英語による言語格差が、グローバル化の加速と英語への渇望の高まりによって人々が意識的に英語を求めるようになったことで顕在化している状況があるのである。スワヒリ語の浸透と民族語の衰退により、都市と農村における日常的な言語使用のあり方はその差異を縮めているが、一方で、英語という成功への鍵となる言語への近さという点において、大きな格差が意識され始めている。 このような状況に反して、タンザニアでは近年再びスワヒリ語使用推進政策が採られるようになっている。この政策の問題は、スワヒリ語の威信の強化による言語的公平を目指すように見えながら、実際には都市エリートのみがアクセスできる社会資本を前提としていることにあり、エリートによる英語の独占状況を強化する危険性が高い。このような亀裂が社会に広く認識されるようになることは、国家統合神話が浸透したタンザニアの社会状況の変化の可能性を示唆するものである。 研究結果から得られたこれらの結論をより具体化し、世界中のさまざまな英語化現象や多言語主義の研究と関連付けながら一般化を行う作業を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は2度のフィールド調査を実施し、2度の学会発表と1本の論文投稿を行った。調査計画は当初の予定通り、前年度のフォローアップ調査を行い、さらに都市における追加調査を行うことができた。 本年度は海外における研究成果発表の機会を得られなかったが、投稿論文において、タンザニアにおけるグローバル化の影響という視点から教授用言語に関するこれまでの先行研究の議論を再考し、自らの研究の理論展開の基盤を気づくことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、既に国内で1度、海外で1度の学会発表が決まっているため、これらの学会発表で得られた意見を参考にしながら、本研究の完成を目指す。また、これまでの調査結果を踏まえて、タンザニアの教育を取り巻くさまざまなアクターが人々の言語態度にどのように影響を与えているかについて、より詳しい考察を行うとともに、タンザニアにおける言語問題の現代の様相を、グローバル化と多言語主義の影響という観点から論じていく。 また、研究を進めていく上で、追加の調査が必要な場合は、6月までに判断して8月までに実施する。また、国外の学術誌への論文投稿にも努める。 最後に、平成29年度はこれまでの研究成果の出版準備も行う。
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Research Products
(4 results)