2015 Fiscal Year Annual Research Report
酸性土壌にみられるアルミニウムイオンによる液胞が関わる植物の生育阻害機構の解明
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15J02597
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
苅谷 耕輝 岡山大学, 環境生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | アルミニウム / 植物の有害元素 / 根 / 細胞死 |
Outline of Annual Research Achievements |
世界の農耕可能地の30%~40%が酸性土壌であり、日本でも酸性土壌の黒ボク土が広く分布している。酸性土壌では様々な要因で作物の生育が阻害されるが、中でも土壌を構成する金属元素のうち多量に存在するアルミニウム(Al)は、土壌の酸性化に伴ってAl3+イオンとして土壌水に溶出し、根の伸長阻害や細胞死を引き起こす重要な因子と考えられている。しかし、Al3+イオンによる伸長阻害や細胞死の誘発機構についてはまだ充分には解明されていない。 そこで本研究では、植物に特異的な細胞小器官である液胞にあるカスパーゼ-1様活性を示すプロテアーゼのVacuolar Processing Enzymeをコードする遺伝子VPEとAl障害機構に糖代謝が関与していることから根の生育に必要なエネルギーとしてスクロースが必要であるためスクロース輸送体NtSUT1に着目し、Al障害ならびにAl耐性への関わりについて、2つの観点でタバコ植物体を用いて解析した。 1. VPEが関わるAl誘発性根伸長阻害および細胞死 -タバコ植物体における解析- V本研究ではBY-2細胞株を樹立したタバコ植物Bright Yellowを用い、BY-2細胞で見られたAlによる細胞死の誘発過程が根においても見られるかどうかを検証した。 2.スクロース輸送体遺伝子NtSUT1の高発現によるアルミニウム耐性の獲得 本研究では、タバコ植物Samsunを用いて、NtSUT1遺伝子に着眼し根におけるAl障害への影響を解析した。タバコ植物SamsunでAlによりNtSUT1遺伝子が抑制されるか調べ、NtSUT1遺伝子の高発現系統(OX系統)ならびに発現抑制系統(RNAi系統)の作出を行い、3つ系統(WT,OX,RNAi)を用い根伸長への影響を、様々の方法で研究した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、植物の生育阻害因子であるアルミニウム(Al)イオンによる細胞死誘発機構について液胞に着目して解析するものである。平成27年度は、液胞局在のプロテアーゼVPEに着目し、タバコ培養細胞を用いたVPE発現抑制株(RNAi株)の作成ならびに解析と、シロイヌナズナのVPE突然変異系統を用いた解析を計画した。前者については、当研究所の改修に伴う移動等の影響で組換え実験が遅れ、RNAi株の樹立には至らなかった。シロイヌナズナについては、変異系統を入手し必要な量の種子を収穫するとともに、野生系統を用いたアルミニウム応答の解析をすませ、変異系統との比較実験に入っている。一方、Alイオンによる細胞死の誘発には、液胞の他にミトコンドリアが関わっており、液胞は糖の貯蔵に関わりミトコンドリアは糖代謝・エネルギー代謝に関わっていることから、両オルガネラが相互に影響をおよぼしている可能性がある。平成27年度の新たな追加研究として、細胞にスクロースを供給する輸送体NtSUT1に着目し、タバコの野生系統・過剰発現系統・発現抑制系統の比較解析を行ったところ、NtSUT1の過剰発現によってAl耐性を獲得することを明らかにした。今後、NtSUT1の過剰発現がVPEの発現やミトコンドリアへ及ぼす影響を解析することで、Alによる細胞死の誘発機構における液胞とミトコンドリアの相互作用の解明が期待できる。 以上の実施状況を総合的に判断し、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.タバコ培養細胞を用いたVPE発現抑制株の作成 これまでの研究によって、タバコ培養細胞株BY-2およびタバコ植物Bright YellowにおいてAlによる細胞死の誘発機構にVPE遺伝子の関与が示唆された。これをBY-2細胞で証明するために現在、VPE遺伝子の発現抑制タバコ細胞株の作成を行っている。平成28年度では抑制株の作成と抑制株を用いてAlに対する応答反応について比較解析することで、VPE遺伝子がAlによる液胞の機能変化や細胞死の実行に関わるかどうかを明らかにする。 VPEが関わるAl誘発性根伸長阻害および細胞死 -シロイヌナズナにおける解析- 2.タバコにおいてAlによる細胞死の誘発機構にVPE遺伝子の関与していることが示唆されたため、他の植物体シロイヌナズナについてもVPEが関与しているか調べるために、野生株を用いて解析した所、タバコ植物体と同様に根の先端において細胞死を起こし、根伸長を阻害する。また、AlによりVPE遺伝子発現を増加させた。さらに解析を進めるためVPE変異体を入手し研究に必要な量の種子を回収した。今後は野生株と変異体の解析を行う。
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