2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J02611
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
阿部 充 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | イオン液体 / セルロース / 誘導体化 / 位置選択性 / ワンポット合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
概要:種々のイオン液体(IL)を溶媒としてセルロースのアセチル化反応を行い、置換基分布の異なる様々なセルロースアセテート(CA)のワンポット合成に成功した。系中に存在するイオン種の組み合わせが、セルロースの分子内水素結合の有無や有機触媒種の生成に影響を与え、置換基分布を変化させていることを明らかにした。 詳細:誘導体の作製において重要な点として、置換基の位置選択性がある。同じ置換基を同じ置換度(DS)となるよう導入した場合でも、2位、3位、6位の水酸基に対してどのような割合で導入されたかによって、誘導体の物性は大きく変化する。そこで本年度は、置換基分布の制御を目的とし、反応試薬の種類やILのアニオン構造を変化させて種々のCAを作製し、構造を解析した。 ILおよびアセチル化試薬を変化させてセルロースのアセチル化を行った。Cl型ILを溶媒とし、反応試薬としてAcClまたはAc2O を用いてCAを合成したところ、部分置換度の序列は、AcClの場合はC6≧C3>C2、Ac2Oを用いた場合はC2≧C6>C3となった。また、酢酸型ILを用いてAcClを用いた場合はC6≧C2>C3、Ac2Oを用いた場合はC6>C3=C2となった。この分布変化は、系中に存在するイオン種の組み合わせによって決定される。Cl型IL中と酢酸型IL中では、セルロースの分子内水素結合の残存率に差があり、これが各水酸基の溶媒和状態の差を生み出す。また、酢酸イオンが存在する場合、イミダゾリウムカチオン由来の有機触媒であるカルベンが生じる。上述のように水酸基の溶媒和状態が異なるため、触媒の働きの程度も変化する。酢酸イオンはILのみならずアセチル化試薬からも生じるため、アセチル化試薬の種類も置換基分布に影響することを明らかにした。以上の結果から、用いるイオン液体及び反応試薬の組み合わせにより、置換基分布の異なる種々のセルロース誘導体が容易に得られることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
セルロース誘導体の置換基分布制御は非常に重要かつ困難な課題の一つである。一連の検討の結果、イオン液体(IL)及びアセチル化剤の組み合わせを変化させるだけで容易に置換基分布を変化させられることを見出した。具体的には、セルロースのC6位、C3位、C2位のアセチル置換度の序列がC6≧C3>C2、C6≧C2>C3、C2≧C6>C3、C6>C3=C2となる4種のセルロースアセテート(CA)のワンポット合成に成功した。 また、この分布変化が生じる原因についても検討し、系中のイオン種の組み合わせによるものであることを見出した。イオン種によってセルロース分子鎖の分子内水素結合の有無、およびILのカチオン由来の有機触媒の有無が変化し、これがアセチル基の分布変化を制御していることを明らかにした。 開発された置換基分布制御の手法はCAのみならず幅広く応用可能であると考えられ、セルロース誘導体の有効利用を大きく進展させるものである。 このように、当初の予定よりも少ないイオン種の検討に留まった一方で、研究開始時には予期していなかった大きな発見があった点から、概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに得られた、置換基分布の異なる種々のセルロースアセテート(CA)について、有機溶媒への溶解性や粘弾性等の物理化学的性質の違いを詳細に検討する。また、より顕著な置換基分布制御を目指す。例えば、イオン液体(IL)に少量の水を添加してセルロースの分子内水素結合の残存率を調整した系におけるアセチル化を評価する。 また、種々のILおよびアルキルオニウム水酸化物水溶液中でのセルロースのエーテル化反応を行う。種々のエーテル化反応の中でも特に困難とされるベンジル化について検討する。溶媒の疎水性や極性と、得られるセルロースエーテル構造との関係を明らかとし、効率的な新規誘導体化反応系の構築を試みる。 また、セルロース誘導体の精密合成に必要不可欠な相互作用の解析を行う。IL-セルロース間には、水素結合(主にアニオン)や疎水性相互作用(主にカチオン)などがあり、誘導体化においては特に水素結合の解析が重要である。ごく最近、重水素を用いないNo-D NMR法により、ILに溶解したセルロースの水酸基の1H NMR解析が行われた。この手法により、IL-セルロース間の水素結合の位置特異性を詳細に解析できる。上述の検討と並行して、IL中にセルロースを浸漬させた際のセルロース結晶表面の膨潤挙動を解析する。結晶表面とIL間の相互作用の位置特異性は、誘導体の合成において重要である上、溶解機構の解明にもつながる。そこで、時間分解固体NMR測定等を用いて、結晶構造の乱れとILの存在位置及び糖鎖との相互作用部位を詳細に解析する。
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Research Products
(3 results)