2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J02611
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
阿部 充 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | イオン液体 / 水酸化物水溶液 / セルロース / 誘導体化 / 高効率反応 / ベンジル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
優れたセルロース溶解能を有する水酸化物水溶液を反応溶媒とした誘導体化プロセスの構築を試みた。誘導体化反応のモデルとして、種々のエーテル化反応の中でも特に困難なベンジル化を選択した。 47%[P4,4,4,4]OH水溶液に3 wt%となるようセルロースを溶解させた後、ベンジルブロミドを滴下してセルロースのベンジル化を行った。得られたベンジルセルロース(BC)の残存ヒドロキシル基をアセチル基へと置換した後、1H NMR測定によりベンジル基の置換度を評価した。ベンジルブロミドの滴下量、温度、および反応時間を変化させ、置換度との関係を評価した。 ベンジルブロミドの滴下量をグルコースユニットあたり9モル当量とし、25℃で3時間攪拌したところ、得られたBCの置換度は2.5となった。従来は、同程度の高置換度BCを得るためには70℃程度で4時間以上の攪拌を必要としていたことから、[P4,4,4,4]OH水溶液を用いることで、非加熱下でも効率的にベンジル化が進行することが明らかとなった。置換度はベンジルブロミドの滴下量に大きく影響を受け、グルコースユニットあたり3~9モル当量となるよう変化させると、それに伴ってBCの置換度も0.7~2.5まで変化した。次に、ベンジルブロミドの滴下量をグルコースユニットあたり9モル当量に固定し、反応温度を変化させたところ、反応温度の上昇に伴ってBCの置換度が低下する傾向が見られた。続いて、ベンジルブロミドの滴下量を9モル当量、反応温度を20℃とし、反応時間を変化させたところ、10分で置換度が2.5に達することが明らかとなった。 以上の結果から、[P4,4,4,4]OH水溶液がセルロースのベンジル化反応の溶媒として優れた能力を有することが明らかとなった。水溶液の濃度やカチオンの構造のデザインにより、様々なエーテル化反応にも応用できると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、主にセルロースのエーテル化反応を検討した。その結果、上述のとおり、従来は70℃で4時間以上かかっていたセルロースベンジル化反応が、非加熱下、わずか10分の攪拌で迅速に進行することが見出された。これは、[P4,4,4,4]カチオンが親油性を有するため、側鎖にある程度のベンジル基が導入されて親油性が増大した低置換度BCとの親和性が高く、ある種のエマルションを形成して反応が促進された可能性がある。また、従来のエーテル化反応では反応温度の上昇に伴って反応効率も向上していたが、本研究で見出されたベンジル化反応においては反応温度の上昇に従って誘導体の置換度が低下するという興味深い結果が得られている。これも、前述のエマルション形成の仮説を裏付ける結果の1つである。すなわち、温度上昇に伴って溶媒のアルキル基の運動性が増大し、エマルション形成能が低下したため、ベンジル化反応の効率が低下したと考えられる。また、実際に反応溶液が反応の初期段階において曇る様子が観察されている。以上の結果は、セルロース溶剤の溶媒物性が誘導体化反応の反応効率に大きな影響を及ぼすことを明らかとした重要な結果であり、本研究の「誘導体化反応のためにイオン液体構造をデザインする」という発想の重要性を示すものである。 このように、当初の予定よりも少ない溶媒種の検討に留まった一方で、研究開始時には予期していなかった大きな発見があった点から、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、以下の3つの課題について並行して研究を進める。 ①置換基分布制御法の開発:以前の検討で得られた、置換基分布の異なる種々のアセチルセルロースについて、有機溶媒への溶解性や粘弾性などの物理化学的性質の違いを詳細に検討する。また、イオン液体の構造デザインや、イオン液体と分子性溶媒との混合溶媒を用いて、より顕著な置換基分布制御を試みる。また、アセチル化以外のエステル化反応への応用を試みる。 ②高効率反応系の構築:昨年度までの研究で見出されたセルロースの高効率ベンジル化反応についての詳細を評価する。反応途中の溶液を急速に凍結させるなどしてエマルションを固定化して観察する。また、ベンジル化剤と水分子との反応(副反応)についても、時間や反応温度の影響を評価する。前述のエマルション形成が反応効率の向上に寄与する仮説が立証された場合は、他の種々のエーテル化反応への応用を試みる。セルロース溶解能を維持しながら親油性を調整したイオン液体または水酸化物水溶液を系統的に合成し、反応溶媒として用いた際の利点と欠点を整理する。 ③相互作用解析:イオン液体-セルロース間には水素結合や疎水性相互作用が働いている。誘導体化反応においては特に水素結合の解析が重要であると考えられる。重水素溶媒を用いないNo-D NMR法や、溶媒シグナルを消去するWET法などを用いて、イオン液体に溶解しているセルロースの3種の水酸基における水素結合形成の様子を個別に解析する。また、イオン液体にセルロースを浸漬した際のセルロース結晶表面の膨潤挙動を解析する。結晶表面とイオン液体間の相互作用の位置特異性は、誘導体の合成において重要な点の一つである上、セルロースの溶解機構の解明にもつながると期待される。時間分解固体NMR測定などを用いて、結晶構造の乱れとイオンの存在位置、相互作用部位について詳細に解析する。
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Research Products
(5 results)