2015 Fiscal Year Annual Research Report
エンタングルメントによるホログラフィック双対性の研究
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15J02740
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
芝 暢郎 京都大学, 基礎物理学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 量子エンタングルメント / AdS/CFT対応 / 超弦理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は場の理論のエンタングルメントという視点から、超弦理論において重要なホログラフィック双対性に対する理解を深め量子重力の性質を解明することである。今年度はこのテーマについて4本の論文を出版した。 場の理論でのエンタングルメントエントロピー(EE)については、ゲージ場におけるEEの定義の仕方について研究した。ゲージ場に対してはEEの定義の仕方に不定性があり、どの定義が物理的に妥当なのか分かっていないという基本的な問題が存在する。そこで格子ゲージ理論を使ってこの問題を考え1つの自然な定義の仕方を提唱した。 次にホログラフィック双対性の一般化として近年提唱されたSurface/State 対応がAdS3/CFT2対応でどのように実現されるかを調べた。Surface/State 対応とは重力理論において任意の凸な曲面は双対な場の理論の量子状態と対応するという予想である。境界状態がSurface/State 対応で重要な役割を果たすことを示し、また双対時空での局所演算子に対応する場の理論の状態を同定した。 また場の量子論における量子情報計量のホログラフィック双対を調べた。量子情報計量とは量子状態間の距離を測る量である。量子情報計量がホログラフィック双対な時空では時間一定面の空間の体積になるということを発見した。これは場の理論のEEが双対時空の面積になることとは対照的であり、興味深い発見である。 ホログラフィック双対性を使いEEを計算するホログラフィックエンタングルメントエントロピー(HEE)は、双対な時空での面積で表される主要項だけでなく、双対な時空上での量子場のEEとしてあらわされる補正項が存在する。そこで、ダブルトレース変形の下での、一般の次元でのHEEの補正項を計算し、その補正項が双対時空でのEEの面積則と境界での場の理論のEEの面積則を同時に満たしていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
エンタングルメントとホログラフィック双対性との関係について、予想以上に多くの興味深い法則を発見したため。例えば、場の理論に情報計量と呼ばれる量を導入しその計算法を確立した。またゲージ重力対応を用いると情報計量は時間一定面の体積で近似できることを見出した。ダブルトレース変形を行った場合にゲージ重力双対を用いて、その変形でどの程度エンタングルメントエントロピーが変化するかを決定した。さらに、重力理論の局所的な励起状態がゲージ重力対応を用いると共形場理論の境界状態と呼ばれる状態で記述されることを見出した。また格子ゲージ理論のエンタングルメントエントロピーの定義の良い候補を与えた。これらの結果、業績として、4本の論文を当該年度に出版でき、そのうち2本はPhysical Review Letter誌に掲載された。また日本物理学会若手奨励賞を受賞しその受賞講演を2016年3月の日本物理学会で行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針としては、場の量子論での基底状態以外の状態でのエンタングルメントエントロピー(EE)の研究や、場の量子論における測定などの量子操作がホログラフィック双対性によりどのように記述されるかについての研究などが考えられる。 場の量子論でのEEは基底状態についてはよく調べられているが、外場が加わった状態についてはよく知られていない。EEの外場への応答を調べることは系のエンタングルメントの性質を知るという意味でも興味深いが、解析が困難で限られた例しか知られていない。そこで解析的な計算が可能だと考えられる例として、例えばアハラノフ・ボーム効果によるEEの変化を調べることが考えられる。これは一般的な外場より解析がしやすいというだけでなく、アハラノフ・ボーム効果という純粋に量子的な現象が、エンタングルメントに及ぼす影響を調べるという意味でも物理的に興味深い問題である。 また、場の量子論における測定などの量子操作がホログラフィック双対性によりどのように記述されるかについての研究は、量子情報的な視点からホログラフィック双対性の本質を理解する上で重要である。これについては、まずシンプルな射影測定などについてそのホログラフィック双対を調べ、その後一般的な測定について調べていきたい。
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Research Products
(11 results)