2015 Fiscal Year Annual Research Report
トニ・モリスンの9.11以降の作品における外傷的記憶の「証言」と「情動操作」
Project/Area Number |
15J02741
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
五十嵐 舞 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | アメリカ文学 / フェミニズム / クィア / ジェンダー / テロリズム / 表象 / 女性文学 / 社会思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は、研究報告、論文執筆、現地調査および市民講座の講師を行った。 研究報告は、2015年9月6日に東京女子大学で開催された、国際ジェンダー学会大会の個人発表において、「ジュディス・バトラー『生のあやうさ』「暴力、喪、政治」における「メランコリー」」という題目で発表を行った。9.11直後のアメリカにおける情動とフェミニズムの関係を分析した理論について論じた。 論文執筆は、トニ・モリスンの「レシタティフ」(1983)について、障碍をもつ人物の身体の表象とグロテスク性の関係を検討した論文、「留め置かれる彼女たちの身体―「レシタティフ」における「グロテスク」のイメジャリと障碍をもつ身体」を、『ジェンダー&セクシュアリティ』に投稿した。 現地調査は、2015年6月26日~7月7日に、アメリカ合衆国に出張した。NYCプライドパレード、ナショナル9/11メモリアル&ミュージアム、アフリカン・アメリカン歴史博物館等を訪問した。主に、9.11以降のジェンダーやフェミニズムに関係する運動の様子と、合衆国史におけるアフリカ系アメリカ人の表象を調査した。 また、2016年3月3日~3月15日に、ポルトガルに出張し、現地のフェミニズム団体やLGBT支援団体等を訪問した。昨今のヨーロッパにおけるテロリズムやイスラーム教徒に関連する状況を鑑み、合衆国を分析する際に参照することを目的として、主に移民や女性に関する現状を調査した。 市民講座は、2016年3月25日に国立市公民館で、国立市の男女平等参画推進事業の一環として、「セクシュアル・「マイノリティ」とはだれか―子どもの性の“あいまいさ”と大人ができること」という題目で行った。最近の自治体によるセクシュアル・マイノリティに関係する施策の背景になる問題系や、それらの施策が直面する課題について解説を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H27年度の計画は、作品分析に用いる理論の整理及び近年の表象の潮流の把握分析であった。理論については、国際ジェンダー学会にて報告した。また、アメリカへの調査によって関連資料を順調に収集している。表象については、文学だけでなく映画やテレビ番組等へと対象を拡大し動向を追っている。加えて、9.11以前のモリスン作品の分析を行い論文を執筆した。さらに、アメリカの相対化を目的としてポルトガルで調査を実施した。この調査で得られた情報は今後、作品分析等において有益な参照項となることが見込まれる。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き、近年の女性や移民などマイノリティの排除包摂に関する理論の整理と、モリスン及び同時代作家の作品の分析を行う。それに際して、次の二点が当初の計画より強調されることが見込まれる。一点目は、9.11をめぐる問題はそれ以前から存在した問題が顕在化したものであると分析されることを踏まえ、9.11以降の作品に加えて9.11以前のモリスン作品の分析も中心的な分析対象とすることである。二点目は、昨今の移民やテロリズムをめぐる状況を鑑み、合衆国を相対化することを目的としてヨーロッパや日本に関する研究や作品も扱うことである。なお、これらの点は当初より計画に含まれていたものであり大幅な変更ではない。
|
Research Products
(2 results)