2016 Fiscal Year Annual Research Report
トニ・モリスンの9.11以降の作品における外傷的記憶の「証言」と「情動操作」
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15J02741
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
五十嵐 舞 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | トニ・モリスン / フェミニズム / クィア理論 / アメリカ文学 / アフリカン・アメリカン / 女性文学 / アメリカ研究 / マイノリティ研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、研究報告、論文執筆、現地調査、及びアウトリーチ活動として市民講座の講師を行った。 研究報告は、6月19日に明治学院大学で開催された日本女性学会大会の個人研究発表にて、「あなた/だれかに曝されつづけるわたし――ジュディス・バトラーによる身体の曝されに関する議論における「他者」」という題目で行った。バトラーが9.11直後のアメリカ合衆国の状況を分析した『生のあやうさ』「暴力、喪、政治」のレトリックを、承認に関する理論や、トニ・モリスンの『スーラ』、ソフォクレスの『アンティゴネー』等を用いて批判的に検討した。 論文執筆は、口頭報告の際に得た指摘等を踏まえ、「「喪失」からはじめる――J.バトラー『生のあやうさ』「暴力、喪、政治」における倫理の端緒」を『女性学』に投稿し、刊行された。「暴力、喪、政治」の議論で想定される主体像を、ダグラス・クリンプの「喪と闘争性」と比較し、9.11直後とエイズ危機の時代の間の社会の状況や運動の担い手の差異に注目しながら、『スーラ』や『アンティゴネー』を用いて批判した。 現地調査は、8月26日から9月4日にアメリカ合衆国に出張した。ニューヨーク公立図書館等で調査し、モリスンの作品に関連する資料や、ニューヨークで活動したフェミニズムや女性運動に関する資料の入手等を行った。 市民講座は、6月22日に練馬区立男女共同参画センターえーるにて、「性的“マイノリティ”と性の“ふつう”」という題目で、性に関する規範や近年の施策が直面する課題について解説等を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の計画は、作品を分析する際に用いる政治や社会の状況とそれを分析する理論の収集と整理及び、作品分析であった。理論については、日本女性学会で報告し、その後学会誌へと投稿し刊行された。政治や社会の状況については、アメリカ合衆国への出張で、モリスンの作品に関連する資料の一部を収集できた。作品分析については、9.11以前に出版された著作を用いて、9.11以降の社会的な状況に関する理論の批判を行った。作品と理論のこのような接続は当初予定していたものではないが、9.11以前の作品が9.11以降に読まれることを鑑みて、9.11をめぐって作品の可能性を広げる意義があると考えられることから、概ね順調と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、近年の女性や移民、性的マイノリティ等のマイノリティの排除や包摂に関するアメリカ政府やメディアの言説の収集と分析と、それを分析批判する理論の整理及び批判的検討及び、モリスン及び同時代の作品の分析を行う。平成28年度に行った研究を踏まえ、9.11以降の社会においてそれ以前の著作がもつ可能性についても検討を進めたい。また、当初より社会的言説を分析する際にメディア媒体を扱ってきているが、メディアの影響力や、運動がメディアを用いることも多い状況を鑑み、同時代の作品についても、TVやインターネット上の作品なども視野に入れることにする。
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Research Products
(2 results)