2015 Fiscal Year Annual Research Report
在日朝鮮人の生活権をめぐる政治:「解放」直後における経済違反と生活共同体
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15J02784
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
李 杏理 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 生活 / ジェンダー / 帝国 / 経済統制 / ヤミ / 冷戦 / 犯罪 / 人種 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は、研究史整理を深化させ、時期区分と対象地域を広げ、広範な視野を獲得することを目指し、海外の学会において議論の端緒を開いた。 第一に、これまでの論稿は1945年以降に絞っていたが、2015年度は戦中にまでさかのぼり、新たに先行研究を調査し史料的にも補てんした内容を8月の在日朝鮮人運動史研究会にて発表した。同報告では、戦時期に創設された経済統制の実態を明らかにした。そこであらたに治安・法曹関係の史料をたどり、課題設定を明確にすることができた。これらの研究成果を踏まえ、先行研究を批判的に検討した書評論文を東京歴史科学研究会機関誌に執筆した。 第二に、本研究を単にマイノリティの歴史や日本の「戦後史」として分析するのみならず、①東アジアの冷戦史および世界の同時代史の一角として地域と視野を広げていかに分析するのか、②植民地以前と以後の連続性や変化をどのように描けるのか、③帝国史研究においては新視角であるジェンダーや生活・食をめぐるファクターとしてどのように浮き彫りにするか、を追求した。 これらの研究視角を練磨するため、オーストラリア日本学学会で報告をした。そこでは人類学的な側面や日本文化と朝鮮文化の比較史の視点を練磨することができた。 12月には、西洋の日朝関係史フォーラムに招聘されて報告を行った。そこでは、上述した植民地期からの経済統制の調査をもとに、人種別犯罪統計の活用や「朝鮮人が闇の根源である」といったイメージ形成に着目して植民地以前と以後で繰り返し表象されていた事実を浮き彫りにした。また、1948年以後の逆コース・冷戦と経済取り締まりのつながりを結論的に論じた。同フォーラムでの議論を通じて帝国史研究のなかに生活史を位置付けることの重要性やジェンダー史の視角を鍛錬することができた。同報告内容は、2016年度に発行される韓国高麗大学の英語ジャーナルに掲載予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、1945年から1950年代までの間に、在日朝鮮人の生活権がいかに規定されたのかについて、経済違反および生活共同体における生業とジェンダー関係に着目して明らかにすることを目的とする。 2015年度「研究実績の概要」に記述した内容のほかに、聞き取り調査を定期的に続行している。その成果は2016年6月に報告予定である。 また、研究方法にあげた『布施辰治弁護関係資料』および国立国会図書館のプランゲ文庫、地方史料等、関連する重要資料についても収集を9割達成し、データ化・購読の作業は半分程度達成済みである。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究実績において理論的に不足していたジェンダー史について、帝国史研究とのかかわりのなかで論争史を整理し、編著の出版および2016年度のジェンダー史学会への投稿をする。そこでは、これまでの近現代史研究において見落とされてき「サバルタン」(植民地化された集団の中で公的記憶から切り離された存在)の政治と生活の連関性を踏まえ、ポストコロニアル研究、冷戦史、占領史、国際関係のなかに本研究の意義を跡付ける。
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Remarks |
研究代表者の広義の研究テーマである、植民地主義とジェンダーに関わる、日本軍「慰安婦」問題についてWebサイトにて報告を掲載した。
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Research Products
(7 results)