2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J02812
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
藤井 達史 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 状況認識 / 実行系機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
ダイナミックかつ目標駆動的な課題遂行時に、自らが置かれている状況の理解や未来の予測(状況認識)に失敗することで、重大な事故に繋がる危険な行動を招いてしまう。状況認識には実行系機能を含む高次認知システムが重要であると考えられているが、それらがどのように状況認識の形成や維持に貢献しているのかは明らかになっていない。本研究では、状況認識の形成に実行系機能が果たす役割を自動車運転場面を使用して検証した。 普通自動車免許を有する男女を対象として、ドライビングシミュレータ上での運転課題を課した。参加者には交差点や歩行者が存在する市街地コースを交通規制に則って運転し、歩行者の飛び出しや他車両の車線変更などに対応するように求めた。さらに、それぞれが運転した映像を刺激として使用した変化検出課題で状況認識を評価した。変化検出課題では、参加者はランダムな時間の短い動画を観察し、動画が終了した数秒後に表示される静止画が、直前に見た動画の最後の風景と同一か否かを報告するよう求められた。 実験の結果、参加者は運転に関する対象が変化したときには、その変化に気づくことができたが、運転に関係しない対象が変化したときには気づくことができなかった。さらに、個人の認知的機能の差による影響を検討するために、視空間的な処理と保持の同時遂行能力と、視覚的な短期記憶能力とを別の課題で評価し、変化検出成績との関係を分析した。その結果、現段階では実行機能を必要とするような視空間的な認知能力や視覚的記憶能力は変化検出とは関係しなかった。ただし、正答率や内観報告から課題難易度が著しく高くいことが示唆されたため、課題の難易度を適正に調整する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
状況認識の評価を実施する方法の実現に時間を要したことが挙げられる。当初の予定では自動車運転課題と平行して、自車の周囲に存在する車両位置を記憶するという方法で状況認識の評価を実施する予定であった。しかし、準備段階において、状況認識を評価するための作業が運転の一環としてではなく運転とは独立した別の作業という位置づけになりやすく、両者を平行して実施することで運転そのものに支障をきたす可能性が高いと判断し、実験計画を再構成することとなった。ドライバの状況認識を評価するための課題も再検討し、結果的に運転と状況認識とは別の時間に別々に実施する方法を採用した。このとき、他車両の配置に関する記憶よりも状況認識に関連する情報処理を反映すると考えられる、運転シーンを使用した変化の検出課題へと評価方法を変更した。変化検出課題では、一般的には静止画が用いられることが多いが、今回は自動車運転という作業の特徴をより反映することができるように、動画を刺激として使用したものを作成したため、情報収集にも追加の時間を要した。その結果、本来であれば、本年度中に二重課題状況での状況認識と実行系機能の関係にまで言及できるように研究を進められる予定であったが、手前の段階である、評価手法の確立までしか研究を進めることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本年度の内容を基盤として、自動車運転に加えてタブレット端末の操作等の別の課題を加えた二重課題の実施によって状況認識の形成が受ける影響を明らかにする。 まずは、昨年度の結果から明らかになった問題点である、課題難易度の調整を実施する。刺激ごとに正答率を比較した結果、全体として検出が容易なパターンや対象と困難なものとが明らかになった。この結果をもとに、課題として適度な難易度を実現できるように刺激を追加で作成する等して調整を実施する。さらに、本年度は学生のみを対象として実施し、全体として運転頻度や経験が乏しいものが多かった。次年度はより多様な参加者層を対象として実験を実施し、経験や年代の差にも言及することで、より詳細な分析を可能とする。 さらに、状況認識に想定されている検出・理解・予測という3つのレベルを分離して評価できるような実験デザインを適用することも課題として挙げられる。現状で使用している変化検出課題は、シーン内での変化に気づくかどうか、を評価している。したがって、3つの段階における検出段階を強く反映していると考えられる。これに加えて、理解や予測といった、より高次の段階に関しても言及できるような刺激の選定や、補足的な課題の考案を実施する。
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