2015 Fiscal Year Annual Research Report
全天X線観測装置・多波長同時観測を用いたブラックホール超臨界降着流の研究
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15J02818
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
堀 貴郁 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ブラックホール連星 / 円盤風 |
Outline of Annual Research Achievements |
ブラックホール(BH) への質量降着流の物理の研究に最適な天体は、恒星質量BH (3から10太陽質量)と伴星が連星系をなす、銀河系内ブラックホールX線連星(以下BH連星)である。多くのBH連星は急激な質量降着によって突発的な増光を起こすことが知られている。特に光度の高い状態(HSS)では、しばしば高電離したガスによる降着円盤風が観測される。降着円盤風は、質量降着率と同程度の質量放出率を担うと考えられ、降着円盤全体の力学や、周辺環境への影響を理解する上で重要である。しかし、円盤風がどのような条件で効率良く生成されるかという基本問題はまだよく分かっていない。 我々は2015 年 2 月、「すざく」および NuSTAR を用いて、HSS にある 4U 1630-47 を計 3 回にわたって観測した。この結果、2006 年の観測時より高い光度における HSS スペクトルの入手に成功した。3 回の観測中における光度変化はわずか 1.3 倍程度であったにもかかわらず、円盤風によって引き起こされる鉄吸収線の強度は大きく減少していた。一般に硬X線の光度が増加するにしたがって鉄吸収線の強度は小さくなることが知られているが、我々の光電離プラズマのシミュレーションにより、観測された変化は硬X線の増加のみでは説明できないことが分かった。 さらに理論的な考察を行ったところ、円盤風の密度や放出半径はコンプトン温度との関係が非常に強いことが判明した。コンプトン温度は、X線スペクトルの形状によって決定されるパラメータであり、円盤風の放出過程と密接に関係している非常に重要なものであるが、今までの研究では無視されてきていた。私はコンプトン温度を含めた円盤風の理論を初めて提唱するべく、現在論文を執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
私は観測されたデータについてイギリスの共同研究者 Chris Done と議論するために、6月から7月にかけて一ヶ月間イギリスのDurham 大学に滞在した。この滞在は非常に有意義で、この滞在中に論文の方向性を定性的に決定することができた。しかし、日本に帰国した後に定量的な評価を行う中で、様々な問題に直面した。具体的には、シミュレーションの方法を変えるだけで大きく結果が変わってしまい、論文の方向性を大きく変更することを余儀なくされた。この問題はすでに解決済みであるが、この結果投稿前の論文を三回書き直すこととなり、大きな時間的なロスを生じさせてしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の早い段階で現在執筆中の論文を投稿する。また、同時に進めている MAXI の過去三年間のデータを用いたカタログの作成を行う。MAXIとは、常時全天を X 線観測する装置であり、これに搭載されている Gas Slit Camera (GSC) は、 2-10 keV の エネルギーバンドで全天観測装置において過去最高の感度を誇る。これを用いた 無バイアス X 線天体カタログは、2 keV 以下をカバーする ROSAT カタログや 10 keV 以上 をカバーした Swift カタログと相補的で、独自の科学的価値をもつ。 銀河系内の X 線天体は星の終末を迎えた天体が多く、天の川銀河形成史を研究する上で非常に重要な対象である。銀河面カタログの作成はこういった研究の根幹をなす。 私は既にGRXE を銀河バルジ放射、 銀河円盤放射の重ね合わせでモデル化し、精度良くバックグラウンドの形状を再現することに成功しており、これを用いた暫定的なカタログを作成している。しかし、現在の位置応答関数は実際のデータとのずれが大きく、明るい天体が込み合っている銀河中心付近では個々の天体を区別することが非常に困難であった。そこで私はこの位置応答関数をより精度のよいものに仕上げることを目標に、いろいろな関数系を実際のデータに当てはめ、最も再現性のよいパラメータを探る研究を進行している。次年度内に銀河面カタログを完成させることが目標である。
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Research Products
(4 results)