2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J02827
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
米田 翼 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ベルクソン / 個体化 / 生物学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の前半は、ベルクソンとヴァイスマンとの理論的影響関係についての研究を進めた。 ヴァイスマンは、論文「自然選択における有性生殖とその意義」において、獲得形質の遺伝を擁護するブラウン=セカールを批判しているが、その要点は、(1)個体の形態学的形質は潜在的な「遺伝的傾向」に基づく規則的な遺伝過程によって生じ、(2)環境的諸条件が形態学的形質に影響を与えるということを意味する獲得形質の遺伝は系統発生には関与しない、というものである。また、獲得形質の遺伝の代替案として、(3)有性生殖と減数分裂による「二つの遺伝的傾向の混合」という理論によって系統発生を説明している。 『創造的進化』では、上述したヴァイスマンの論文が参照され、特に(1)と(2)の論点を積極的に受け入れながら「偏差の遺伝」という仮説が提示されるが、ベルクソンの強調点は、この仮説を通してブラウン=セカールを論駁することによって、ヴァイスマンが言う潜在的な遺伝的傾向の存在を強調する点にあったと考えられる。ただし、上記の(3)の論点についてベルクソンは懐疑的であり、このことからもベルクソンは環境的諸条件が個体の形質に影響を与えるという外在主義的な説明の余地を残していると言える。この点がヴァイスマンとの最大の相違点である。 以上の検討から、『創造的進化』では、個体化の実効的な機構因としてヴァイスマンのモデルが評価されていると考えられる。 平成27年度の後半は、ベルクソンのシステム論の研究に着手した。 『創造的進化』では、知覚や科学に相対的な「人為的に閉じられたシステム」と自然的に個体化された「自然的に閉じられたシステム」という個体性の二つの位相が区別されている。このうち後者は「持続の間隔」という通時的な規定を与えられているが、生物個体においては遺伝論を通してこの定義の内実を明らかにできるのではないかという見通しがたった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
達成度については、実際のところは、(2)「おおむね順調に進展している」と(3)「やや遅れている」のあいだくらいである。 ヴァイスマンとベルクソンとの理論的影響関係の解明という平成27年度の第一の研究目的はおおむね達成し、その結果として、研究以前には曖昧であったベルクソンの個体化論における遺伝論の位置づけが明確に焦点化できているので、区分を(2)にした。 また、平成28年度以降の研究の中心となるベルクソンとジアールとの理論的影響関係を検討する際に必要な資料についても、パリの国立図書館(BNF)等ですでに収集できており、現時点で検討に着手できている点もあるので、この意味では区分(1)「当初の計画以上に進展している」に相当するところもある。 ただし、当初の研究計画で着手する予定だったベルクソンとモノーの比較研究については、モンペリエ学派を通した両者の合目的性概念の比較等、いくつかの要点を中心に研究に着手しているが、この研究を発表や論文という成果にするためには、もう少しモノーの単論文にあたる必要があり、この意味では区分(3)に相当する。 しかし、ベルクソンとヴァイスマンとの理論的影響関係についての研究を丁寧に行なったこともあり、ベルクソンとモノーの異同を検討する際に、ヴァイスマンの議論が主要な参照軸になりうるという研究以前には見えていなかった見通しが立ったという意味では、(2)に近いとも言える。 平成28年度の研究の中心はベルクソンとジアールとの理論的影響関係の解明にテーマが移り、これまでの遺伝論と関連が薄いものになるため、ある程度のまとまりがついたらもベルクソンとモノーとの比較研究の成果を発表や論文の形にすることとする。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の前半は、「自然的システム」と「人為的システム」の関係についての考察を進め、ベルクソンの階層的存在論批判について検討する。平成27年度の時点で、すでにベルクソンのシステム論の全体的な枠組みについての研究成果を学会発表の形でまとめており、平成28年度は、これまでの研究成果をさらに深化させつつ論文の形でまとめる予定である。具体的に言えば、ベルクソンのシステム論は、還元、スーパーヴィーニエンス、あるいは創発といった議論のうちに暗黙裏に採用されている階層的な存在論への批判として読み替えることが可能であり、この点に焦点をあてて、ベルクソンのシステムの個体化論を現代哲学の観点から問い直すという作業を行なう予定である。 平成28年度の後半は、「自然的システム」の内実について検討する。「自然的システム」には、「持続の間隔」という通時的な定義だけでなく、「相互に補完し合う異質な諸部分から構成される」という共時的な定義もあり、後者の内実を検討するためには、『創造的進化』で参照される19-20世紀の群体論からの理論的影響を考慮する必要がある。それゆえ、今年度の後半は、ベルクソンが特に大きな影響を受けたと考えられるジアールの群体論についての科学史的な文献調査を実施し、ベルクソンの個体性概念の共時的な側面についての考察を進める予定である。ジアールの文献についてはすでにある程度収集しているが、研究の進展に応じて、関連する文献の追加収集のためにBNFに行く可能性も考えられる。
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Research Products
(3 results)