2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J02827
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
米田 翼 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | ベルクソン / ル・ダンテク / 創発 / 老化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、ベルクソン哲学における個体性概念の内実を解明するために、ベルクソンが自然的システムと呼ぶ生物個体について、二つの観点から検討した。 平成28年度の前半は、創発の概念史にベルクソンを位置づける思想史的研究を通して、自然的システムの生成メカニズムにかんするベルクソンの主張が20世紀初頭にどのように評価されていたのかについて検討した。現代の創発主義においても主流派とされる「認識論的な創発主義」の立場からすると、ベルクソンの学説は神秘主義的だとされて忌避されることが多い。しかし、創発概念の練り上げに貢献した理論家のなかでも、哲学者のS. アレキサンダーや心理学者のL. モーガンらは、むしろベルクソンの記憶力理論を積極的に援用しながら「存在論的な創発主義」を確立しようとした。本研究では、従来では看過されてきたこの隠れた系譜を追跡することで、ベルクソンの創造的進化というモデルに生物学的な内実を与えつつ再定式化する道筋を示した。平成29年度は、モーガンとベルクソンの理論を接続することによって、この研究をさらに発展させることを目指す。 平成28年度の後半は、生物学者のF. ル・ダンテクからベルクソンへの理論的影響関係について考察することで、「持続の間隔そのもの」という自然的システムの定義の内実を解明する研究を行った。ル・ダンテクは、「時間における個体性」について検討する過程で、老化現象を同化によって基礎づけるという立場を確立するが、その結論は、老化は可逆的な現象であり、それゆえに「時間における個体性」は同定できないというものである。これに対してベルクソンは、老化現象を遺伝的な記憶力によって基礎づけることで、老化の不可逆性を主張し、さらにそこから、「時間における個体性」を示すことこそが自然的システム=生物の最大の特徴であるという結論を導いた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ベルクソン哲学における個体性概念の内実の解明という、平成28年度の研究の第一の目標は、概ね達成されたため、進捗状況は区分(2)「おおむね順調に進展している」にした。 平成28年度の前半に実施した研究は、当初の予定では、認識論的な創発主義の前提となっている階層的な存在論を退けるものとしてベルクソンのシステム論を再読することのみを目的としていたが、ベルクソン自身の積極的な主張を定式化しなければ論文として成果をまとめることはできないため、この点にかんしては(3)「やや遅れている」に近いところもある。ただし、モーガンのベルクソン読解を通して、ベルクソンの理論を創発主義として再読することができるという見通しが得られ、すでにこの研究に着手しているため、全体として見れば(2)に近いと言える。 平成28年度の後半に実施した研究は、当初の計画では、生物学者A. ジアールからベルクソンへの理論的影響を踏まえて、「異質的な諸機能の総体」という自然的システムの共時的な定義の内実を解明した上で、システムの共時的側面に着目した今西錦司の「棲み分け理論」との比較研究を行う予定であったが、研究を進めるにつれて、ジアールからの理論的影響よりも、ル・ダンテクとの論争の方がベルクソンが自身の理論を練り上げる上で決定的な役割を果たしていたことが明らかになったため、計画を修正して、ベルクソンとル・ダンテクとの関係についての研究に集中した。ただし、ジアールについての文献研究を進める過程で、シモンドンの生物学的個体化の一つの根幹をなす、「共生」と「寄生」にかんする理論が、ジアール及びE. ラボーの影響下にあることが明らかになったため、本研究全体の最終的な目標の一つであるベルクソンとシモンドンとの比較を実施する上での有効な視座が得られた。この意味では(1)「当初の計画以上に進展している」とも言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の前半は、モーガンの『創発的進化』におけるベルクソン読解を踏まえて、ベルクソンの『物質と記憶』と『創造的進化』を連絡することによって、ベルクソンの哲学的進化論を存在論的な創発主義として再構成する作業を完遂し、論文としてまとめる。とりわけ、モーガンの『創発的進化』では、ベルクソンの「純粋記憶力」や「イマージュ」といった概念が生物の創発的性質を記述するために援用されているおり、この点に着目して研究を進める予定である。 平成29年度の後半は、平成28年度に実施したベルクソンとル・ダンテクとの比較研究の成果を論文としてまとめると共に、その成果を踏まえて、ベルクソンとシモンドンの個体化論について、とくに両者の生物学的な背景の相違に着目して比較的に検討する。具体的に言えば、ベルクソンの場合には、A. ヴァイスマン由来の遺伝についての考えを重視し、通時的な創発として個体化のプロセスを記述するがゆえに、ル・ダンテクなどのフレンチ・ネオ・ラマルキズムの学説に対して否定的であるが、シモンドンの場合には、むしろジアールやラボーなどのフレンチ・ネオ・ラマルキズムの群体論を積極的に援用して、共時的な創発として個体化のプロセスを記述する、という仮説のもとで研究を遂行する。なお、本研究を遂行するにあたって、ジアールとラボーの一次文献を収集する必要があるため、フランスのBNFへ文献調査に行く必要がある。また、研究の進展に応じて、ヴァイスマンの文献を追加収集するためにドイツに行くことも考えられる。
|
Research Products
(5 results)