2015 Fiscal Year Annual Research Report
支配的アーカイヴへの抵抗―資本主義下における歴史と記憶
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15J02866
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
田尻 歩 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | アーカイヴ / 資本主義 / 歴史 / 記憶 / 写真 / アヴァンギャルド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題「支配的アーカイヴへの抵抗――資本主義下における歴史と記憶」は、国家や新聞社、またゲティ・イメージなどのグローバル企業が保有するアーカイヴが作り出す社会のイメージ(=所与の象徴秩序)を批判する芸術実践を、思想的・美学的観点から考察するものである。発表論文「海/資本/都市――アラン・セクーラのリアリズム」においては、合衆国の写真家・批評家であるアラン・セクーラの写真実践を扱い、彼が1995年に出版した写真集『フィッシュ・ストーリー』が、画像同士また画像とテクスト同士を衝突させるモンタージュを通して既存の象徴秩序に介入するプロセスを分析した。日本においてほとんど研究されていないセクーラについての論文であると同時に、アーカイヴ批判という独自の観点から論じた点で重要な貢献と思われる。 また、日本の象徴秩序への介入の実践例として口頭発表と発表論文において、芸術家赤瀬川原平の1960年代から80年代までの著作と写真実践を分析した。ポピュラー・カルチャーとして論じられがちな「超芸術トマソン」という写真実践が、1960年代の赤瀬川のアヴァンギャルド的活動と連続しており、それが有していたはずの介入的な特質を明らかにした。また英語論文"Reconsidering the Historiography of Japanese Contemporary Art"においては、日本の現代美術批評の言説がアヴァンギャルド的実践を「日本文化」として論じる傾向があることを論じた。たしかに日本の文化的特質が芸術実践の中に現れるのは当然だが、文化的特質のみを評価する観点だけでは、ときに排他的に機能する「日本」というイメージを芸術実践そのものが批判している様を分析できないことを証明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画としては、アラン・セクーラによるアーカイヴ批判の論文を予定どおり提出した。この論文執筆に際する調査・研究を経て、1970年代前半から活動し始めたセクーラの芸術活動が、1960年代アメリカでヴェトナム反戦運動などの社会運動とともに勃興したコンセプチュアルアートを中心とする(ネオ)アヴァンギャルド芸術からの影響と反省を基盤としていることが判明し、アヴァンギャルドという芸術実践のあり方そのものが、本研究課題である社会に所与に存在している象徴秩序への介入と深い次元で繋がっていることが理解されたため、本研究課題にアヴァンギャルドの視点が組み入れられることになった。 この既存の象徴秩序への介入とアヴァンギャルド芸術の理解という観点から、赤瀬川原平についての論文を執筆し、彼の実践における象徴秩序に対する介入的特質を明らかにした。また、社会の象徴秩序は抑圧的なアーカイヴから生み出されるイメージによってだけ構成されているのではなく、そのイメージを受け取る文脈(=言説)によっても規定されているため、芸術実践が受容される言説分析が必要であるという結論にいたった。日本の現代美術批評の言説は、「日本」という固定された社会のイメージによってアヴァンギャルド芸術実践を論ずる傾向があり、そういった見方では、ときに排他的に機能する「日本」というイメージを芸術実践そのものが批判している様を分析できないことを明らかにした。 批評言説自体の分析を行うことは研究計画では予定していなかったため、一時的に計画から外れはしたものの、本課題の目的達成にはむしろ近づいたものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の計画としては、資本主義体制のもとで抑圧的なアーカイヴから生み出される象徴秩序が構築されるプロセスのより綿密な理論化を図るとともに、その象徴秩序を批判するアヴァンギャルド芸術実践の調査を引き続きおこなう。具体的な作家としては、フェミニズムの影響を受けた写真家ジョー・スペンス、赤瀬川と同時代に批評家としても活躍していた中平卓馬、またセクーラと同時代のマーサ・ロスラーの作品を調査し、固定化された社会イメージの批判という実践をより体系的に描き出す。 ジョー・スペンスの研究に関しては、2016年7月2日、3日に開催される「カルチュラル・タイフーン 2016」のパネル発表において発表予定である。
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Research Products
(5 results)