2016 Fiscal Year Annual Research Report
移民規制の厳格化とトランスナショナルな社会空間の変容―米墨間移民の事例を中心に
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15J02917
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
飯尾 真貴子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 強制送還レジーム / 米墨間移住 / トランスナショナル視覚 / デポータビリティ / 越境的な統治メカニズム / 国際循環的な移民労働力の淘汰と再利用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、移民送出国のメキシコにおいても影響力をもって機能する米国強制送還レジームの偏在的な権力構造を明らかにすることである。平成28年1月~平成29年3月までの研究中断期間(平成28年10月~平成29年3月までは再開準備支援期間)を経て、平成29年4月に復帰した。 中断期間中から、日本ラテンアメリカ学会で口頭発表(平成28年6月4日)を行うだけでなく、論文の執筆を行った。その成果として、受入研究者である小井土彰宏教授の編著『移民受入の国際社会学――選別メカニズムの比較分析』の第二章を担当し、平成29年2月に刊行された。この論文では、強制送還レジームが「越境的な統治メカニズム」として機能するというこれまでの研究の発見点の骨格を示すとともに、非正規移民の階層化が進行していることを指摘した。 また、当初の予定通りメキシコ村落部における現地調査を平成29年3月に実施した。その結果、米国の家族、親族、知人から借金した大金を密入国斡旋業者に支払い再越境する人がいる一方で、強制送還前の刑務所や移民収容所に再び収容されることを恐れ越境を諦める人々の存在が明らかになった。それは、移民を「犯罪者」として扱い、家族や社会から長期間隔離する収容所のトラウマ的経験が、帰国者の再越境を阻む要因として作用していることを意味している。 このような調査結果や先行研究を整理した結果、米国の強制送還政策は移民の物理的排除にとどまらず、国際循環的な移民労働力の淘汰と再利用という帰結をもたらしていることを認識した。強制送還レジームによって行使される規律的権力が、様々なメカニズムを通じて個々の移民に内面化され更なる移動を阻む一方で、文化的ハビトゥスを身に着けた帰国者はトランスナショナル企業によって付加価値を見出され低賃金労働力として利用される構図を生み出している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、口頭発表や論文執筆だけでなく、メキシコにおける現地調査を予定通り実施できた。中断期間を経て再び調査地に戻り関係性を構築し、今後引き続き米国およびメキシコにおいて調査を実施するうえで重要なステップとなった。実施期間は2週間と限定的であったものの、15人以上の帰国者に聞き取りを行い、前述したような新たな発見点へとつながった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以上の調査結果をもとに米国政府が編み出した偏在的な移民規制の権力構造が、国境を越えメキシコ村落部においても影響力を持って機能している様を論文としてまとめていきたい。特に、近年の移民規制の厳格化が生み出す「国際循環的な労働力の淘汰と再利用」という現象を、フーコーの統治性の議論に立ち返り「越境的な統治性」として捉え議論を深めていきたい。 今後の調査予定としては、平成29年8月~9月にこの村落出身者が形成する米国側のトランスナショナル・コミュニティに接近し、米国側における強制送還政策を含めた移民規制の厳格化がどのように経験されているのか、その影響を統治性の観点から検討する。 平成30年2月~3月にはメキシコ村落部で最終的なフォローアップ調査を実施する予定である。メキシコ村落部で被強制送還者への聞き取りだけでなく、村人たちによる越境や強制送還に対する捉え方に着目することで、強制送還政策の持つ規律的側面をさらに補完的に明らかにする。こうした調査結果を踏まえて、口頭発表や投稿論文としてまとめていく予定である。
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Research Products
(2 results)