2016 Fiscal Year Annual Research Report
ATLAS実験におけるWW弾性散乱の精密検証による別種ヒッグス粒子の質量への制限
Project/Area Number |
15J02931
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
救仁郷 拓人 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 素粒子実験 / ウィークボソン / 共鳴状態 / 新粒子探索 / ATLAS 実験 / コライダー実験 / ブーストされたボソン / ジェット |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題ではWW弾性散乱の測定を最終的な研究対象とするが、現時点ではより少ない統計量で可能なウィークボソン共鳴状態による新粒子探索の研究を進めている。ウィークボソン対の終状態としてはいくつか考えられるが、片方のWボソンがレプトン崩壊(W to lv)をし、もう一つのWまたはZボソンがハドロン崩壊(W/Z to qq)をして、終状態にレプトンを一つ含むチャンネルの研究を進めている。 質量の大きな新粒子が崩壊した時に放出されるW/Zボソンは高いエネルギーを持ち、そのハドロン崩壊から放出されるクォークは近接しており独立した2つのジェットとして分けることが不可能なため、サイズの大きな1つのジェットとして扱われる。ゲージボソン共鳴状態による新粒子探索の研究についての現状を ICHEP2016 にノートとして提出しているが、現時点ではサイズの大きなジェットに起因する誤差が全体の誤差に対して大きな割合を占めているため、その削減が新粒子の発見感度を改善するために重要である。 サイズの大きなジェットがもつエネルギーをより良く較正するために、昨年度からマルチジェット事象を用いた較正方法を開発している。元々通常のジェットを較正するために開発された手法をサイズの大きなジェットに適用するために、各種イベント選別条件を最適化し、サイズの大きなジェットに特有な問題を解決してきた。この研究によってジェットのエネルギーの較正精度に対する誤差を現状の半分にすることが可能である。これらの研究成果を解析に適用するための準備が進んだ。また、研究内容をカンファレンスノートにまとめるべく、準備を進めている。 更に、それ以外にもサイズの大きなジェットのエネルギーや質量に対する分解能の誤差を正確に見積もる研究など、主にサイズの大きなジェットについてグループ内で責任を持って進めており、ミーティングでその議論を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
終状態に1つのレプトンを含むゲージボソン共鳴状態の解析では、既にイベント選別条件の最適化が進んでいる。そのため、新粒子の発見感度を向上するためには、誤差を削減する研究を行う必要がある。解析に対して考慮すべき誤差は約80個あるが、そのうちでも大きな割合を占めているサイズの大きなジェットの系統誤差について、グループ内で担当して研究を勧めている。基本的な研究が進み、カンファレンスノートと論文にまとめる準備が出来た。 昨年度から継続して行っている、複数のジェットを含んだイベントを用いてジェットのエネルギー較正を行う研究についても研究が進み、カンファレンスノートの執筆を勧めている。 また、安定したDAQシステムの運用にも貢献した。複数の独立したミューオン検出器にわたって通常の状態の約100倍のヒットが数マイクロ秒にわたって連続して発生するバースト事象とよばれる現象がある。原因が分かっていないためその理由は分からないが、ビームのルミノシティが高くなるにつれてバースト事象が頻発することが経験的に分かっており、実際に2016年にはATLAS検出器に供給されるルミノシティは徐々に高くなり、バースト事象が頻発した。 バースト事象がどのようにして起きるのかを調べるためのエレクトロニクスを2年前に開発・導入しており、その運用を進めてきた。当該年度には、そのエレクトロニクスにおいてバースト状態であると判定された時にははトリガー供給を止めることで、大量のヒットを含んだイベントを処理する必要がなくなったためDAQシステムを安定して運用できるようになり、その結果DAQシステムの不動作時間を小さくすることに貢献した。このように安定したデータ取得を行うための研究も、修士課程から引き続き進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は本研究課題の最終年度にあたるため、これまで進めてきた研究を更に改良するとともに、論文やカンファレンスノートといった形にこれまでの研究をまとめていく。現時点ではジェットのエネルギー較正に関するノートまたは論文と、ボソン共鳴状態の測定に関する論文の2本を進めている。 ジェットのエネルギー較正に関してはノートの草稿が完成し、グループ内での回覧を進めている。最適なイベント選択が行われているか、測定の系統誤差に漏れや余剰な部分はないかなど議論を進めており、7月のカンファレンスにおいてカンファレンスノートを提出することを目指している。 ゲージボソン共鳴状態の測定に関しては、最初にカンファレンスノートを提出し、その後論文にまとめる予定である。これらのノート・論文において、私は特にサイズの大きなジェットに関する部分を責任をもって担当している。ジェットのエネルギー較正精度や分解能の誤差が新粒子の発見感度に対して持つ影響を見積もり、ノート内でまとめている。こちらについてもグループ内での回覧が進み、最新版をまもなく実験全体に回覧できる。 ジェットのエネルギー較正精度の最新結果はゲージボソン共鳴状態の論文では使われない予定である。最新の誤差を取り入れることによってより発見感度が上がった結果を自身の博士論文としてまとめる予定である。
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Research Products
(4 results)
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[Presentation] Jet performance in Run 2 at ATLAS2016
Author(s)
救仁郷 拓人
Organizer
BOOST 2016: 8th International Workshop on Boosted Object Phenomenology, Reconstruction and Searches in HEP
Place of Presentation
スイス、チューリッヒ、University of Zurich
Year and Date
2016-07-21 – 2016-07-21
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