2015 Fiscal Year Annual Research Report
ケアの倫理の承認論的再解釈―ヘーゲル哲学のフェミニズムへの応用
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15J03020
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
岡崎 佑香 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | ヘーゲル / フェミニズム / ケア / 自立性 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、フェミニズム・ケアの倫理の観点から、ヘーゲル『精神現象学』における「自立性」概念を精査し、その成果を口頭発表1回、査読付き論文1本として国内で発表した。 平成27年5月に日本女性学会で、「自立性」概念についての研究成果を口頭発表し、フェミニズム研究者から有益な批判を得た。この批判に応答しながら練り上げた論文が、『女性学』第23号に掲載された (「ヘーゲルの自立性再考――ケア論の新たな展開に向けて」)。 この発表および論文では、 ①これまで欧米および国内のフェミニズムから「他者への依存を否認するものである」と批判されてきたヘーゲルの『精神現象学』自己意識A章を精査し、そのような批判が当たらないことを立証した。また、②ヘーゲルの論点は、「自立性」が「非自立性」に基礎づけられているということ(だけ)ではなく、「非自立性」こそが「自立性」であることということを明らかにした。以上を通じて、ヘーゲルがフェミニズムの自立性批判を先取りしている点を指摘するに留まらず、ヘーゲルは「自立性」概念の内実を刷新する点で、フェミニズムを発展させる視座をもつということを論じた。本研究が、(『精神現象学』を精読する哲学研究でありつつも)国内のフェミニズム研究者から一定の評価を得たのは、ヘーゲル哲学が現代社会の喫緊の課題の一つである、ケア(再生産労働)の問題をより深く考察する視点を提供し得ることを説得的に論じることができたからであると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の課題は、『精神現象学』における「自立性」概念と「力」概念の意義を明らかにすることであったが、後者の意義を考察することができなかっため、必ずしも予定通りに進捗しているとは言い難い。しかしながら、ケア理論に対するヘーゲル哲学の積極的意義を提示できた点で、ヘーゲル哲学とフェミニズムを架橋させることに、当初の計画以上に、成功したと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もひきつづきドイツ共和国・ベルリンで在外研究を行う予定である。フェミニズムの観点からヘーゲル研究を行っているEva Bockenheimer氏(ジーゲン大学)と、『精神現象学』自己意識章および精神章の研究について定期的に意見交換を行い、とりわけ「奉仕」概念の意義を明らかにしていく。これを通じて、ドイツ語圏における研究ネットワークを構築していく予定である。
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