2016 Fiscal Year Annual Research Report
ベトナム人高度人材の就労状況―トランスナショナル視角からの考察
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15J03054
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
平澤 文美 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ベトナム人留学生 / 留学生の職業キャリア / 外国人高度人材 / 日本語学習者の職業キャリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ベトナム人高度人材が日本企業、在越日系企業において獲得する地位や従事している業務について実証的に明らかにすることを目的としている。平成28年度は主に以下の研究を実施した。 1.平成27年度に実施した量的調査(在越日本語学校の生徒約600名を対象とした調査票調査)の集計を実施し、結果を学会で発表した。また、集計結果全体を公表する予定である(平成29年4月現在、日本語学校と調整中)。 2.ベトナム人元留学生の日本での就労状況/ベトナムに帰国した人の就労状況について:実際に日本で就労するベトナム人、留学後帰国し日系企業で働くベトナム人を対象に聞き取り調査を実施し、職業歴や賃金、地位のほか、家族や将来構想など職業歴の背景状況についても包括的に情報を収集した。 3.ベトナムの労働市場/都市-農村格差/ジェンダーと家族内労働、賃金労働の関係/について主にベトナムにおける先行研究を整理した。 本研究の特徴は、日本企業、ベトナムの日系企業におけるベトナム人高度人材の就労状況や本人のキャリア選択のあり方について、ベトナム社会に軸足を置いた分析を試みることにある。この試みは、平成28年度の調査により進めることができた。産業の未発達により大卒の人材を受け入れる基盤がないベトナムの労働市場において、留学経験者たちの相対的優位性が確認され、現段階の傾向としては留学経験が当人の良好な地位獲得に肯定的な影響を及ぼしていることが分かった。また、日系企業の現地社員雇用のあり方については、先行研究で指摘されてきた内部労働市場の日本人/現地社員間の分断だけでなく、よりバラエティに富んだ人材活用の形が進行中であり、人材活用のあり方も企業側の意向だけでなくベトナムの地域特性やジェンダー別キャリア、雇用慣行などベトナム社会側の諸要素が関与していることが見えてきた。調査の方向性が明確になったと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度は学会での報告は行ったが、学会誌等での論文の発表に至らなかったこと、また調査の遂行においても、まだ目標としている調査対象者数(50名以上)に達しなかったという反省点があるため、上記の評価区分を選択した。 平成27年度、28年度の調査を通じて、ベトナム社会に軸足を置いたベトナム人高度人材(大卒、日本留学経験者)の職業選択や就労状況の分析という本研究の目的の達成は進みつつある。雇用状況も含め詳細かつ信頼に足る統計が整備されていないベトナムにおいて、若年層への量的調査を行い(平成27年度実施)、できる限り詳細な就労状況を把握し、日系企業、日系企業で就労する人に対しても多様な業種、年齢の人々を対象に調査を実施してきた。そのため日系企業における現地社員雇用のバラエティや、日本留学経験者のベトナム労働市場における位置づけなどについて、先行研究において指摘されていない新たな知見を得ることができた点は評価できる。しかし得られた知見はまだ総花的であり、社会学として理論的に議論を展開できるほどの量的、質的な強度を持たない。これが学会誌等での論文発表に至らなかった理由である。しかしながら、量的な面で強度のある情報を得ようにも、ベトナムにおける雇用状況の詳細な統計の整備は現時点では期待できず、日本においても元留学生の卒業後の進路等に関する全国的な傾向の把握は、日本学生支援機構(JASSO)調査においても出身国別の統計は未整備であり、大観を把握することが難しい状況は続くだろう。結局のところ個々人への調査を集積してゆくことで個々人に共通する問題やベトナム人高度人材の特徴を浮かび上がらせる方法しかないので、平成29年度は個人の調査により傾注していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年となる平成29年度は、日本、ベトナムにおいてベトナム人元留学生への聞き取り調査を進め、日本において不足している元留学生についての量的調査の補足として日本の各大学への調査票による調査を行い、3年間の研究のまとめとして論文を発表する。 まず日本におけるベトナム人元留学生への調査は、元留学生でつくるサークルと個人的な機縁法を用いて面接の機会を得て聞き取り調査を実施していく。ベトナムにおける調査も同様に元留学生でつくるサークルと個人的な機縁法により聞き取り調査を実施する。週末しか自由時間がない社会人を対象としているので、ベトナム滞在はこれまでよりも長期に滞在し(3ヵ月程度を予定)、多くの対象者と面接の機会を持てるよう調整する予定である。これまでの調査により、留学奨学金の有無、男女、世代、年齢段階により、日本留学の本人にとっての意味、日本留学のキャリアへの影響が異なる傾向が見られた。聞き取り調査を積み重ねることでベトナム人留学生の傾向を分類する軸について明確にする。 元留学生について大観的に把握したいのは大学卒業後の進路である。JASSOが実施する調査により留学生全体の卒業後の進路は把握できるが出身国別の調査は実施されていない。この点を補うため、各大学にベトナム人留学生の進路状況について調査票を送付する形で調査を実施する。 以上の調査と、これまで蓄積してきた日本の外国人人材受け入れの歴史、背景となるベトナムの社会変動や産業構造、日越関係の変化、日本の産業構造の変化等に関する文献調査の結果を合わせ、社会構造とベトナム人元留学生の職業キャリア、ライフコースの関連性を浮かび上がらせ、ベトナム人元留学生の特徴を示す。3年間の研究の成果を学術論文にまとめる。
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Remarks |
『Saigon Language School 日本語学習者調査 報告書』を一橋大学機関リポジトリ HERMES-IR(https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/)にて公表予定(調査対象機関 Saigon Language School と公表内容調整中)
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Research Products
(2 results)