2016 Fiscal Year Annual Research Report
津波被災地における地域包括ケア体制の構築:「保健とジェンダー」の災害社会学
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15J03070
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
板倉 有紀 東北大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 地域包括ケア / ジェンダー / 福祉社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)地域包括ケアとジェンダーに関する研究 津波被災地を含む地域で実施した在宅緩和ケアの家族ニーズに関するアンケート調査研究の成果を、報告書と論文として刊行した。在宅緩和ケアで、主介護者の7割を占める女性の家族介護者が抱えている負担感の現状分析を行った。この調査研究をふまえて保健師と協働し被災地に看取り対応の施設の開設という実践にも取り組む予定である。 (2)津波被災地における保健医療福祉とジェンダーに関するフィールド調査 ①津波被災地でのフィールド調査への着手:当該年度は、岩手県陸前高田市でのフィールド調査に着手した。東日本大震災の発災直後から継続して行われている地域包括ケア会議に聴衆として参加し関連情報の収集に努めた。同市において地域の女性が主体となって行っている介護予防活動や食生活改善に関する自主活動について、運営者へのインタビューを行うとともに、実際の取り組みに複数回参与観察を継続しており、参加者層や参加動機、効果の内容について考察している。地域包括ケアの構築にとって重要な保健師と住民との協働の在り方という点に着目して、進めている。②被災後の高齢層への支援活動の継続:保健師と協力し、高齢層を対象としたサロン活動を、岩手県盛岡市で行ってきた。岩手県沿岸部から津波被災後に転入してきた独居女性や、高齢者世帯が主な参加者であり、血圧測定や健康相談を行う保健師の活動について、参与観察的にフィールド調査を継続してきた。これらの活動を通じて、既に行政を退職したベテランの保健師達が、被災した住民に支援を行う中で、どのような知識を活用しているのか、行政での保健師経験がどのように活かされているのかについて、社会学の立場から考察を継続している。ベテラン保健師の活用については、他の先進地域の事例についての情報も集めて検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、地域包括ケアに関する調査研究として、国内でも社会科学系の分野からの研究例が少ない在宅ケアの分野に関して行ってきた調査研究について、報告書と論文を刊行した。この成果は、ケア場面での家族やジェンダーについて、地域包括ケア体制の推進の中に生じている課題を明らかにしたものであった。当該研究課題は実践的成果として、地域包括ケア体制に向けた提言を行い、専門職と協働しつつ被災地域の保健福祉を長期的に支えることを目的としているが、特に看取りの場の不足は、現在関わっている被災者支援の場面でも課題になっている。この成果は、当該研究課題を実際の被災者ニーズを考慮しながら進めていくうえで、重要な基盤になった。 被災者支援における保健師の役割に関しては、前年度から継続して研究を進めてきたが、ベテラン保健師に関して行った調査研究の成果を論文として投稿することができた。保健専門職が集まる学会で報告した際の意見も、保健師が現在おかれている状況を鑑みるうえで重要な示唆になった。 これらの示唆も参考にしながら、当該年度の後半からは、以前から交流のあった保健師の協力を得て、新たに津波被災地でのフィールド調査に着手することができた。フィールド調査は、女性の市民による自主的な健康づくり・介護予防活動についてのものである。コミュニティカフェという形態で住民が運営している健康づくり・介護予防活動に対して、行政の保健師ならびに福祉専門職がどのように関与しているのか、社会学的にみてコミュニティカフェという形態がもつ保健福祉的機能はどういう点にあるのかという点は、これまでの研究成果の延長線上に位置づけられる課題である。最終年度に向けて成果をまとめるために計画的にフィールド調査を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究として、(1)女性が主体になっている健康づくり・介護予防活動に関するフィールド調査の継続、(2)災害時の保健師派遣体制に関する事例研究を主に進めていく予定である。 (1)については既に着手しており、岩手県陸前高田市のコミュニティカフェの取り組みを対象として行っている。この取り組みについての保健師の関わり方についてのインタビュー調査も計画している。被災状況が深刻であった地域において、健康づくり・介護予防活動を目的としたテーマ型のコミュニティが持つ保健福祉的機能について、社会学における福祉コミュニティ論を理論的背景とした調査研究を進める予定である。地域包括ケア体制の構築のためには、住民も主体的に関わる必要があると考えられており、このフィールド調査の実施を通して、被災地における事例を検討する。そうすることによって、地域包括ケア体制の構築に向けた保健師の活動モデル、ならびに女性が主体になることの意義を考察し、成果を学会等で公表する。 (2)についても、保健師派遣に関してこれまで行ってきた調査研究と関連しているが、今後は災害直後の状況について、岩手県陸前高田市の事例に関するインタビュー調査と、関連する文献の検討に集中的に取り組む予定である。災害時の保健師を含む「災害時健康危機管理支援チーム」に関する議論が保健師業界でも活発化している。こうした背景と議論の要点を十分に考慮して、災害時に県外から派遣された保健師の経験、災害時に県外から派遣されてくる保健師のマネジメントに当たった地元の保健師の経験について明らかにし、主に緊急時の保健師の実践について明らかにする。そうすることで、保健師にとってどのような知識や経験が災害時に重要なのかという実践的な側面からの提言を行うとともに、地域防災体制の1つとしての保健師という専門職の知識の在り方について学術的な側面から考察する。
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Research Products
(3 results)