2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J03177
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
泉田 邦彦 東北大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 洞(うつろ) / 日本中世史 / 地域権力 / 常陸国 / 南奥 / 戦国期 / 国衆 / 古文書学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、関東・奥羽の領主権力を研究することで、戦国期東国における地域権力の概念を相対化し、研究概念の枠組みを再構築していくことにある。平成27年度は戦国期の北関東・奥羽に特徴的にみられる「洞(うつろ)」という概念と領主権力の領域支配構造との関係を明らかにするため、15世紀~16世紀初頭を対象に研究を行った。研究実績は以下の通りである。 (1)室町・戦国初期の奥州岩城氏の研究。室町後期の岩城氏当主発給書状を調査・分析し、その成果を星川礼応氏との共著「「伊達家文書」所収「岩城親隆書状」の再検討」(『仙台市博物館調査研究報告』36号、2016年3月)として公表した。また、2015年7月に東北学院大学中世史研究会第47回大会、同年8月に第53回中世史サマーセミナーにて口頭発表を行い、岩城氏が戦国期権力化していく過程と「洞」の関係、及び領域支配構造の実態について考察を行った。 (2)南北朝・室町期の奥州標葉氏の研究。調査の過程で発見した新出史料を基に研究を行った。その成果は相馬郷土研究会例会2015年度9月例会にて口頭発表するとともに、2016年3月に発行された『相馬郷土』31号に「南北朝・室町期の標葉下浦氏-新出史料 海東家文書の「下浦家伝来中世文書」の考察-」として論文を公表した。従来の研究では室町期の標葉氏の実態は不明とされていたが、室町期の標葉氏(特に一族の下浦氏)が陸奥国海道五郡一揆の標葉庄の代表者、且つ室町幕府の京都扶持衆として活動していたことを明らかにした。 (3)室町期の常陸佐竹氏の研究。佐竹氏と国衆である江戸氏・小野崎氏との関係を15世紀に遡って考察し、佐竹氏が戦国期に「洞」を形成する過程について分析を行った。この成果については、2016年度刊行予定の論文集(高橋修編『佐竹一族の中世』、高志書院)に拙稿「十五世紀における佐竹氏権力と江戸氏・小野崎氏」を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題を遂行するために当初の計画では、地域ごとに分析を進めていく構想を立てていた。具体的には、1年目(平成27年度)に戦国期常陸国を対象とした研究を、2年目(平成28年度)に戦国期奥州地域を対象とした研究を行い、その上で関東と奥羽両地域とのつながりを明らかにしていこうとしたのであった。しかし、実際に研究を進めていく過程で、当該地域は政治史が複雑にリンクしあっており、且つ領主権力の立場が時期によって目まぐるしく変化していることが判明し、当初の研究計画のままでは課題遂行が困難であるとの見解に至った。加えて、戦国期の北関東・奥羽地域において特徴的に表れる「洞(うつろ)」概念についても、両地域とも同時期に史料上頻出する点を踏まえると、両地域を跨がる形でその形成過程と実態を捉え直していく視点が必要があると考えるようになった。そのため、研究計画を一部見直し、地域によって研究対象を区分するのではなく、時期ごとに両地域を比較しながら研究を行い、課題へアプローチすることとした。以上の状況を踏まえて、H27年度は以下の3点から研究課題に取り組んだ。 (A)基礎データとなる史料の収集と見直し。 (B)南北朝~室町期における関東・奥羽の領主権力の実態解明。 (C)戦国期における関東・奥羽の領主権力の領域支配構造の解明。 (A)については、史料を所蔵する博物館や個人宅に赴き、史料の原本調査を行うとともに、博物館等が所蔵する未翻刻史料を解読し、関連史料を網羅的に収集することで、研究の基礎となる史料データを集積することができた。また、(B・C)については、15~16世紀初頭の奥州岩城氏・標葉氏、常陸佐竹氏を主な対象として研究を行い、口頭発表及び論文発表において研究成果を公表することができた。H27年度の取り組みによって、今後本格的に研究課題である戦国期の領主権力を研究する基盤を整えることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
H27年度は当初の研究計画を一部見直し、15世紀~16世紀初頭(室町期~戦国初期)の奥州岩城氏・常陸佐竹氏等を対象に、彼らが戦国期権力化していく過程と「洞」の実態、領域支配構造と地域秩序に関する研究を実施した。H28年度は、前年度に得た蓄積を基に、戦国期の北関東・南奥羽における領主権力に関する研究を継続していく。H28年度は研究課題を遂行するため以下の課題に取り組んでいく。 (A)関連史料の調査・集積。H27年度と同様、基礎となる史料の収集・見直しを一つの軸とする。具体的には、常陸佐竹氏関連史料を多数収蔵している秋田県立公文書館・茨城県立歴史館、中世史料の影写本を多数所蔵している東京大学史料編纂所における史料調査を行うつもりである。なお、H28年度に予定していた仙台市博物館所蔵「伊達家文書」の原本調査はH27年度に実施済みである。 (B)戦国期の北関東・南奥地域の領主権力の実態解明、及び両地域の比較検討。前年度に対象とした常陸佐竹氏と奥州岩城氏に関する研究を16世紀中期~後期に焦点を絞って実施していく。近年、領主権力が戦国期権力化する契機の一つとして天文期(1532-1555)の内訌の克服が指摘されているが、常陸・南奥においては検討の余地が残されている。当年度は岩城重隆-親隆―常隆、佐竹義昭-義重-義宣の三代に着目し、天文期の内訌における領主間の関係の変化、永禄年間以降の領主の権力構造及び領域支配の実態を明らかにしていく。その上で両者を比較検討し、北関東・南奥羽をつないだ視点から地域権力の概念を相対化していきたい。 また、上記のほか、(C)関連学会への参加及び研究報告の実施、(D)口頭発表済の研究報告を査読誌へ投稿、などを積極的に行う。これらの課題に取り組むことで、戦国期東国における地域権力の概念を相対化し、博士論文では両地域における研究概念の枠組みの再構築を試みる。
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Research Products
(5 results)