2015 Fiscal Year Annual Research Report
多彩な電子状態を制御可能な異種金属グリッド型錯体の創成
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15J03221
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
佐藤 悠貴 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 無機化学 / 金属錯体 / グリッド型錯体 / 磁性 / 多段階酸化還元 / 電子移動 / 異種金属多核錯体 / 双安定性分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、光や熱などの外場でスピン転移する錯体部位を集積化した新しい多重双安定性分子システムの創成を目指している。すなわち、酸化還元活性な金属イオンをグリッドに集積化することで、酸化還元によりグリッド中の金属イオンが外場により動的に電子状態を変換できる異種金属グリッド型錯体の構築を目的として研究を進めた。 これまでに合成した銅・鉄9核[3 x 3]グリッド型錯体に習い、異種金属イオンからなる [3 x 3]グリッド型錯体の合成を検討した。合成条件を工夫することで暗緑色菱形板状結晶として銅・コバルト[3 x 3]グリッド型錯体を得た。単結晶X線構造解析より、金属イオンが[3 x 3]グリッド状に配列した9核錯体であることが明らかとなり、金属イオンの配位構造からグリッドの中心に位置する金属イオンがコバルトイオンであることが分かった。電気化学測定より、5段階の準可逆な酸化還元波が観測され、新たな双安定性分子であることが分かった。つづいて研究計画に従い、既報の[3 x 3]グリッド型錯体に使用したポリピリジン系多座配位子の末端をピロールに置換した新規ポリピリジン系多座配位子を合成し、これをもちいた[3 x 3]異種金属グリッド型錯体の合成を現在検討中である。 更に、金属イオンの原子価電子が非局在化し、金属イオン間の強い電子的相互作用を持つ混合原子価錯体に着目し、ヘテロ環架橋されたルテニウムグリッド型錯体の構築を試みた。3座配位部位を2つ持つポリピリジン系多座配位子をもちいることで、4つのルテニウム(II)イオンが[2 x 2]グリッド状に配列した4核グリッド型錯体を得た。今後、ルテニウム4核グリッド型錯体の酸化還元挙動と混合原子価状態を明らかにし、混合原子価状態由来の動的物性発現を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における一年目の計画は、新規配位子合成と異種金属[3 x 3]グリッド型錯体の構築を予定していた。本年度、新規ポリピリジン系多座配位子を合成し、[3 x 3]グリッド型錯体の合成を行い、研究はおおむね順調に進んでいる。具体的には、これまでに成功した銅・鉄9核[3 x 3]グリッド型錯体の合成法を参考に、[3 x 3]グリッド型錯体の中心に異種金属イオンとしてコバルトイオンの導入を検討した。合成条件を工夫し、銅・コバルト9核グリッド型錯体を暗緑色菱形板状結晶として得た。単結晶X線構造解析より、金属イオンが[3 x 3]グリッド状に配列した9核構造をもち、金属イオンの配位構造からグリッドの中心に位置する金属イオンがコバルトイオンであることが分かった。電気化学測定より、5段階の準可逆な酸化還元波が観測された。新規配位子の合成に関して、既報の[3 x 3]グリッド型錯体に使用したポリピリジン系多座配位子の末端をピロールに置換した新規ポリピリジン系多座配位子を合成した。 更に、金属イオン間の強い電子的相互作用による外場誘起電子状態変換など動的物性を示す混合原子価錯体の合成を行った。ルテニウムイオンをイミダゾールで架橋し、金属イオン間に強い電子的相互作用を示す[2 x 2]グリッド型錯体を合成した。この錯体は2価のルテニウムイオンが[2 x 2]グリッド状に配列した4核錯体構造を持ち、電気化学測定により金属イオン間に比較的強い電子的相互作用を持つことが明らかになった。今後は多彩な電子状態・物性変換が可能な多重双安定性分子システムの開発を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で新たに合成した新規ポリピリジン系多座配位子をもちい異種金属[3 x 3]グリッド型錯体の合成を現在検討中である。今後、異種金属グリッド型錯体の単離を行い、単結晶X線構造解析、元素分析、ICP発光分析などの手法により組成と構造を決定する。各種分光測定、電気化学測定によりグリッド型錯体の電子状態とその多様性について検討する。さらに、グリッド型錯体の各酸化状態を単離し、分子内電子移動やスピンクロスオーバーによる電子状態変換について検討する。 ヘテロ環架橋ルテニウム4核[2 x 2]グリッド型錯体については電気化学・分光電気化学測定により電子状態の多様性について検討する。また、混合原子価ルテニウム(II/III) 4核グリッド型錯体を化学的手法と電気化学的手法により単離し、外場による物性変換システムの構築を目指す。更に、金属イオンの選択、配位子修飾によるフロンティア軌道設計により金属イオン間の電子的相互作用を強くすることで、上記の外場による状態変換が可能な多重双安定性システムの構築を目指す。
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Research Products
(4 results)