2016 Fiscal Year Annual Research Report
スラヴ諸語の音交替現象に関する一般的性質と共時変異の解明
Project/Area Number |
15J03345
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡部 直也 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | 言語学 / スラヴ諸語 / 音韻論 |
Outline of Annual Research Achievements |
6月までモスクワに滞在し、ロシア国立人文大学の教員の指導の下ロシア語母語話者を対象とした調査を行うとともに、発音辞典や俗語辞典から資料収集を行った。対象としたのは主に新語・外来語における母音弱化や硬口蓋化のパタンである。帰国後は収集したデータを整理し、分析を進めた。8月に母音弱化に関して学会で発表し、外来語・新語における特有のパタンと本来語と共通するパタンとを説明する枠組みを提案した。9月の学会発表では、外来語の硬口蓋化の回避に関して、子音の種類や母音の強勢の有無などが関連していることを指摘した上で、類型論的観点からの考察を行った。 ロシア語以外のスラヴ諸語に関しても、主に電子版の辞書からデータ収集を進めた。特に着目したのはポーランド語における母音交替・母音削除、チェコ語における母音の長短の交替である。特にこれらの現象は不規則性が強く、種々の要因を考慮する必要であると考えられる。まず、全体的な傾向を数量的にまとめ、頻度の低いものについては音韻論的メカニズムよりも語彙的な特性が関与していると仮定した。3月の学会発表では、こうした頻度の低い現象を、特定の語彙における音韻表示の不完全性によって説明する一方、比較的頻度の高い現象については特別な音韻表示を仮定せずに音韻的文法によって説明すべきであると主張した。 音韻現象に対する理論分析を進める上で、語彙的特性や形態統語論といった非音韻的要因についても考察を勧めた。特に外来語・新語の特殊性に着目する一方で、本来語と同様に活用や派生する場合に本来語の音韻パタンに従うことが多いことから、単に語根が本来語か外来語かだけではなく、語形成のパタンによって音韻パタンを予測する必要があると考えた。3月の学会発表では、各音節について音節核が外来語に属する場合にのみ、外来語特有の音韻パタンが生じることを提案した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
データ収集・分析を概ね終え、平成29年度に予定している理論分析を行える段階に入っている。これまでの成果についてもまとめる段階に入っており、すでにいくつかの学会において発表する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
収集・分析したデータを基に理論分析を進める。その上で、スラヴ諸語に関する音韻論分析のみならず、音韻理論及び言語学の他分野の幅広い先行研究を参照し、自らの分析を精緻化する。 具体的な今後の課題としてはまず、対象とするスラヴ諸語の音韻現象について、類型論的観点を取り入れながら整理し記述することが挙げられる。その上で、データの数量分析を行い、理論的考察を進める必要がある。スラヴ語学における記述的文献、及び音韻論やその関連理論(形態論など)とのインターフェースに関する先行研究を踏まえ、考察を進めてゆきたい。
|
Research Products
(5 results)