2015 Fiscal Year Annual Research Report
ショウジョウバエの器官運命転換を制御するエピジェネティック制御機構の解明
Project/Area Number |
15J03403
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
増子 恵太 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | ショウジョウバエ / 細胞運命決定 / 器官形成 / エピジェネティクス / ヘテロクロマチン |
Outline of Annual Research Achievements |
発生における器官運命の決定と維持のメカニズムには未だ不明な点が多い。本研究では、Winged Eye(WGE)遺伝子の過剰発現によって誘導できるショウジョウバエの器官改変系をモデルに、器官レベルの運命転換を制御するエピジェネティック制御機構に迫ることを目的とした。 (a)ヒストン修飾に着目した解析:WGEを過剰発現すると、ヒストンH3の9番目のリジン残基のメチル化(H3K9me2)の関与する転写抑制性のヘテロクロマチン化が過剰に亢進することが分かった。このヘテロクロマチン化の亢進にはヒストンメチル化酵素Su(var)3-9やヒストン脱アセチル化酵素Hdac3が関与していることが分かった。これらヒストン修飾酵素の機能欠損変異体やメチル化H3K9結合因子であるHP1変異体ではWGEによる器官改変が十分に生じないことが分かった。以上のことから、ヘテロクロマチン制御が器官運命の転換において重要な役割を果たしていることが明らかとなった。 (b)染色体核内動態に着目した解析:WGEが核膜裏打ち蛋白質Laminと相互作用すること、WGEが幼虫組織において核周縁部に強く局在していること、Laminが器官改変に必要であることが分かった。FISH実験から、WGE過剰発現によって特定の遺伝子座が核内で動的制御を受けている可能性が示唆された。以上のことから、核周縁における染色体の動的制御が器官運命の転換において寄与している可能性を提示した。 今後は、ヘテロクロマチン化がどのようにして器官運命転換に寄与しているのか、この制御がどれだけ普遍的な制御であるのか、(a)と(b)に相互関係があるのか、を検証するための実験を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)WGEを過剰発現した組織において、ヘテロクロマチンに関連するエピジェネティック修飾が異常亢進することに着目し、その分子機構及び器官運命転換における機能を検証した。まず、このエピジェネティック修飾の変化には、ヒストン脱アセチル化酵素Hdac3とヒストンメチル化酵素Su(var)3-9が重要な役割を果たしていることがわかった。これらの機能欠損変異体、及びヘテロクロマチン結合因子であるHP1の機能欠損変異体は、WGEによる器官改変を十分に誘導できないことから、これらの因子を介したヘテロクロマチン制御が器官の運命転換に重要な役割を果たしていることが考えられた。また、これらの制御は、少なくとも通常発生においてなされる器官運命の決定への寄与はあまり大きくないと考えられた。 (2)WGEが核膜内膜を裏打ちするLamin蛋白質と物理的に相互作用することに着目し、WGEが染色体領域の核内動態を介したエピジェネティック制御に関与する可能性を検証した。幼虫組織において、WGEが染色体と核周縁部との接触部位に多く局在していることがわかった。この局在にはBAHドメインを介した染色体への結合が必須であることがわかった。また、核周縁部における転写制御に関わるHdac3がWGEの核内局在に影響を及ぼすことが示唆された。FISH法によりショウジョウバエ複眼原基細胞における染色体核内動態を顕微鏡下で観察した結果、WGE過剰発現により特定の遺伝子座が核周縁部に物理的に近づく傾向が観察された。これらの結果は前述の仮説を支持していると考えられた。 以上のように、WGEによる器官改変系をモデルとした解析から、器官運命転換を制御するエピジェネティック制御の一端を見出しつつあるため、概ね順調に進展している、と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)器官運命の転換における、ヘテロクロマチンの役割をさらに追及する。具体的には、a)この制御がショウジョウバエの器官運命転換現象に普遍的であるのか、b)ヘテロクロマチン制御がどのように器官運命転換に寄与しているのか、を解明する。a)では、人為的な遺伝子操作に依存しない器官運命転換にヘテロクロマチン制御が重要であるかを検証する。b)では、ヘテロクロマチン制御を受けるゲノム領域を調べる、または、ヘテロクロマチン制御を破綻させた時の網羅的な遺伝子発現解析を行う。 (2)染色体の核内動態制御のメカニズムについてさらに追及する。具体的には、ヘテロクロマチン制御と相互関係にあるのかを検証するために、ヘテロクロマチン化を阻害した時の染色体動態制御やヘテロクロマチン制御を受けるゲノム領域の性質などを調べる。
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Research Products
(4 results)