2016 Fiscal Year Annual Research Report
ディラック-ワイル電子系におけるスピン電磁結合の理論
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15J03412
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
紅林 大地 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ワイル半金属 / スピントロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ディラック・ワイル電子系における電子スピンの外場応答を解析することを目的に研究を行った。特に、3次元トポロジカル絶縁体に磁性不純物をドープして実現した強磁性ワイル半金属における、電流誘起スピントルクと電圧誘起スピントルクを線形応答理路を用いて系統的に調べた。 まず、電流誘起スピントルクとして、スピン軌道トルク、スピン移行トルク、β項について解析を行った。その結果として、ワイル半金属中では、スピン軌道トルクが軸性電流に比例することを明らかにした。また、スピン軌道トルクが従来のシュレーディンガー電子系の場合と比べて異なる緩和時間依存性を示すことがわかった。この緩和時間依存性の違いから、ワイル半金属中では試料をクリーンにすることで、シュレーディンガー電子系と比べ大きなスピントルクを生成できることが期待される。さらに、ワイル半金属中では系の有するカイラルゲージ対称性により、スピン移行トルクとβ項が消失することを明らかにした。一般的な強磁性金属で遍歴電子スピンと局在電子スピン間の角運動量交換から生じるスピントルクが、ワイル半金属中では消失するというのは非自明な結果である。 次に、スピン期待値をゲート電圧の応答として計算した。その結果として、ワイル半金属中では磁場中においてゲート電圧によってスピントルク(電圧誘起スピントルク)を誘起することが可能であることを明らかとした。また、電圧誘起スピントルクがカイラル量子異常に起因する3次元ディラック・ワイル電子系特有の現象であることを明らかにした。近年、ワイル半金属におけるカイラル量子異常の観測を目的とした輸送実験が多く試みられている。本研究の結果は、系の磁気応答(核磁気共鳴実験など)からカイラル量子異常を捉えることができることを示唆しており、カイラル量子異常探索に新しい可能性を与えると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究においてスピントルクをはじめとする系の物理パラメータを微視的に導出することに成功している。これは、当初の計画通りであり、研究がおおむね順調に進展していると考えている。また、昨年度は2本の論文(1本は現在投稿中)をまとめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、磁気構造の運動の解析を行う予定である。具体的には、ワイル半金属中での磁壁(最も簡単な磁気構造)に対するLLG方程式を構築し、その運動を解析する。ゲージ場中のディラック電子系の作用へ局在電子との交換相互作用を加えた作用を出発点として用いる。ディラック電子について汎関数積分を実行することで、局在電子スピンのダイナミクスを記述する有効作用を導出する。得られた有効作用を、局在電子スピンの方位角と磁壁の中心座標を変数として書き換え、正準交換関係をこの2つの変数に対して導入することで、ワイル半金属中の磁壁に対する運動方程式を導出する。得られた方程式を解くことで、磁壁と電磁場の結合について調べ、電場による磁壁駆動を検証する。ワイル半金属中では、カイラル量子異常により電場と磁化が直接結合するため、従来とは異なる機構によって効率的に磁壁を駆動することが可能であると期待される。
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Research Products
(9 results)