2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J03451
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
廣瀬 崇幹 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 東インドネシア / パルミラヤシ / 生業 / 生存戦略 / 人口支持力 / 栄養状態 / 社会関係 / 地域研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
・手法 【生産力調査】ヤシ砂糖採取の生産力を求めるために、A村及びB村でヤシ砂糖採取を行っている男性計23人を対象として、一人一日、ヤシ砂糖採取の追跡調査を行った。また、雨季の天水農業の生産力を測定するため、サンプルとした計40世帯(A村、B村各20世帯)の畑面積を測定した。また、収穫時期に各世帯を巡回し、ばねばかりで収穫物をはかりとった。 【栄養状態調査】筆者が食事の時間に集落内を歩き回り、直接秤量を繰り返してポーションサイズと実際の食事の量を数値化した。また、同集団内で長期にわたる食事聞き取り調査を行った。筆者が各世帯を一日2回以上巡回し、世帯主または調理従事者に、前回の聞き取り以降に摂取した食糧の種類と量を聞き取った。その後、インドネシアの食品成分表を参照してエネルギー摂取量を推定した。また、各季節において構成員の体重を測定し、年齢と性別からエネルギー・たんぱく質の推奨摂取量を推定した。 ・結果 A村において、雨季の天水農業による緑豆とソルガムの生産力は非常に低く、サンプルとした世帯内の畑作物だけでは、村民が必要とする総エネルギーの17.0 %しか占めていなかった。一方、乾季のヤシ砂糖における生産力はA村・B村の44世帯を合わせて合計2570.4 MJ/日であり、一日当たりでこの集団が必要とするエネルギーの1202.7 MJ / 日をはるかに超える213 %のエネルギーを生産していた。このヤシ砂糖は、花序液としてそのまま飲用するほかに、煮詰めて濃縮糖として保管したり、家畜に餌として与えたりしていた。しかしながら、聞き取り及び参与観察によれば、このヤシ砂糖採取は年間で90日ほどしか行われない。このため、年間を通した食糧生産の視点では、ヤシ砂糖の生産及び自給農業の生産力を総合しても、現在の食糧生産だけでは十分なエネルギーを摂取できないことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【概要】フィールド調査を長期にわたって行うことができたため、論文投稿のために十分な量と質のデータを集めることができた。ただ、フィールド調査によって得たデータの分析に対して想定以上に時間がかかっており、論文発表としての成果はまだ表れていない。 【フィールド調査の進捗】フィールド調査の許可取得はおおむね順調に進行し、無事にフィールド調査を開始することができた。インドネシア東ヌサ・テンガラ州のヌサ・チュンダナ大学と協定を結び、インドネシア研究技術省から学術調査の承認を経た。また、調査地であるサブ・ライジュア県の県知事、郡長および村長と面会を行い、研究計画について同意を得た。 ・当初予定していたフィールド調査のうち、生業調査・栄誉状態調査・経済調査・社会関係調査については順調に進展した。行動調査(タイム・アロケーション調査)については、時間の都合上、聞き取り調査に簡略化して行った。途中、調査者が病気にかかるなどでフィールド調査が一時停止した時期もあったが、当初の計画よりも多量のデータを集めることができた。 【データ分析の進捗】データ分析を日本帰国後より開始している。世帯調査、および生産力調査(畑面積の測定、及び収穫物の秤量)の分析を完了させた。また、ヤシ砂糖採取の行動調査(27人・日)分析を完了させている。また、2つの村のうち片方の食事調査・経済活動調査の分析を完了させた。しかし、データを総合して論文を執筆する段階には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
・データ分析 【B村における食事調査の分析】B村における食事調査の結果を分析し、A村のそれと比較を行う。B村はA村と比較すると島外に比較的多くの親戚を持っており、経済活動も活発である。そのような差異が、食習慣にどのようにかかわっているのかを考察する。今後は、以下の分析を進める予定である。【経済調査の分析】A村・B村における経済活動の比較を行い、それがどのように栄養状態や食習慣にかかわっているかを考察する。【社会関係の分析】世帯レベルでの経済調査の分析、及び食料の入手源調査を基にした社会関係の分析を、A村とB村で行う。また、社会関係を通して得ることのできる食糧と貨幣を通じて得ることのできる食糧に着目し、経済力が栄養状態や摂取食糧の構成にどのようにかかわっているのかを考察する。【衛星画像の解析】サブ・ライジュア県の衛星画像を購入し、地域内のパルミラヤシの本数を推定する。これまでのフィールド調査に基づいて潜在的なヤシ砂糖の生産力を推定し、ヤシ砂糖の人口支持力についてモデリングを行う。【統計解析】栄養状態を目的変数とし、世帯レベルでの食習慣にはどのような因子が最も影響しているのかを考察する。 ・フォローアップ調査 追加で調査や事実確認が必要となった個所については、もう一度フィールド調査を行い、データの取得を行う。また、ジャカルタの中央統計局で地図や人口動態などの統計データを入手する。渡航期間は2週間~1か月を予定している。 ・成果発表 分析したデータを統合し、栄養・生業・社会の関係について投稿論文を執筆する予定である。また、国内外での学会発表も予定している。
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