2015 Fiscal Year Annual Research Report
人口減少による負のスパイラルを抑制する都市間旅客交通ネットワーク形状計画
Project/Area Number |
15J03532
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山口 裕通 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 都市間旅行需要モデル / 離散選択モデル / 旅行回数分布 / 交通ネットワーク計画 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,人口減少期に公共交通機関に起こりうる「LOS低下の負のスパイラル」に着目し,(1) LOS低下の負のスパイラルの基本的な性質の解明,(2) 負のスパイラルを抑制できるようなネットワーク基本形状を明らかにすることを目的としている. 初年度である2015年度には,都市間旅客流動データの統計分析を通じて,旅行需要の面からLOS低下の負のスパイラルの基本的な性質の解明を行った.具体的には,社会生活基本調査と全国幹線旅客純流動調査の過去20年分の統計分析から,交通サービスの新設・廃止に対する旅行行動の変化を予測するための2つのモデルを提案した.これらのモデルは,LOS低下による旅行需要の変化を予測することができ,供給側の行動と組み合わせることでLOS低下の負のスパイラルの全容を理解しシミュレーションを行うことができる. そのモデルの感度分析として,北陸新幹線開業による都市間旅行パターンの変化を算出するシミュレーションを行った.このシミュレーションを通じて,以下の2点が明らかになった.(a) 交通サービスの新設(廃止)によって,旅行回数を増やす(減らす)という効果があるが,「年間にまったく旅行しない」という層の構成比を変える効果はない.(b) 交通サービスの新設(廃止)があった地域では,集中量が大きく変化する.しかし,集中量変化の大半は,「旅行先変更」によるものであり,全体の旅行数を変える効果は,旅行先変更分と比較して非常に小さい.これらの成果は,都市間旅客交通ネットワーク計画を考えるにあたり,「どのように交流量を維持するべきか?」といった議論ではなく,「限られた資源である旅行量をどう配分すべきか?」という従来と異なった視点が必要であることを示唆する,重要なものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,人口減少期に公共交通機関に起こりうる「LOS低下の負のスパイラル」に着目し,(1) LOS低下の負のスパイラルの基本的な性質の解明,(2) 負のスパイラルを抑制できるようなネットワーク基本形状を明らかにすることを目的としている.そのうち,2015年度では,(1)LOS低下の負のスパイラルの基本的な性質の解明に相当する,交通サービスの新設・廃止に対する都市間旅行パターンの変化を表現するモデルの作成を予定通りに完了している点で,おおむね順調に進展しているといえる.その研究を通じて,「定量的な減少予測」や,「旅行需要が限られた資源であり,ネットワーク計画はその配分を決める問題である」という,これまでにない貴重な研究成果を得て,積極的に対外発表を実施してきた. しかし,「旅行需要が限られた資源である」という成果については,当初の予想と異なるものであり, (2)のネットワーク計画部分の目標値を発生旅行数ではなく集中旅行数に置き換えて考えるべき点と,その結果に関する検証を追加的に行うという,2点において,研究計画を微修正して進める必要がある.前者については分析作業・取りまとめ上は大きな変更ではなく,順調に研究を遂行できる見込みである.後者については,当初の計画にはない追加的なものであるが,すでに利用するデータを決定し分析準備を始めており,計画以上の成果が期待できる.
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度の研究において,交通サービスのLOS変化による都市間旅行パターンの変化を予測するモデルの作成を通じて,「LOS低下の負のスパイラル」の基本的な性質の解明を行った.この研究を通じて,研究計画段階で大きいと予想していた交通サービスの悪化が旅行数自体を減少させる効果は予想より小さく,「旅行先の配分」という形で吸収される可能性が示唆された.この示唆は,都市間旅客交通ネットワーク計画を考えるにあたり,「どのように交流量を維持するべきか?」といった議論ではなく,「限られた資源である旅行量をどう配分すべきか?」という従来と異なった視点が必要であることを示す,重要なものである. しかし,この成果を学会などで発表したところ懐疑的な意見も多く,山口が利用した5年ごと20年分のrepeated cross sectionalデータの限界からも,より精緻な検証が求められる.そこで,研究計画におけるネットワーク計画の前段階として,「別データから2015年度の研究成果の検証」を新たに追加して研究を進める.この検証分析は,その後のネットワーク計画における基本的な考え方につながるものであり,事前に完了しておくことが望ましい.そこで,携帯電話位置情報を用いた分析を,本年度の上半期(4月-8月)で分析を行い,成果をとりまとめる予定である.その後に,当初の予定通り,都市間旅行需要モデルを用いたシミュレーションを行い,本研究のまとめとして都市間旅客交通ネットワーク計画に向けた示唆をとりまとめる予定である.
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Research Products
(6 results)