2015 Fiscal Year Annual Research Report
c-Myb DNA結合ドメインの機能に着目した生物学的揺らぎの多角的解析
Project/Area Number |
15J03576
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
稲葉 理美 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 熱力学量 / 構造揺らぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は主に、対象タンパク質c-Myb DNA結合ドメイン(R2R3)の基礎物性解析を中心に進めた。まず、生理的条件下における構造特性を明らかにすべく、異なる温度条件、およびpH条件下での構造安定解析を行った。異なる温度条件下における二次元NMR測定を行った結果、顕著な信号強度の減少が観測された。そこで、より詳細な特性を明らかにすべく、シグナル帰属に必要な各種三次元スペクトル測定、主鎖シグナルの帰属を行った。また、キャビティ(揺らぎ)を小さくしたV103Lを作製し、同様の解析を行ったところ、野生型の顕著な構造揺らぎはキャビティ周囲で顕著あること、さらに生体内環境に近い温度でも、特徴的な揺らぎが起こることを明らかにした。この他、側鎖の多次元測定や横緩和測定、緩和分散測定を行い、部位特異的な詳細な構造揺らぎの情報を取得し、そのユニークな構造特性を明らかにした。次に、異なるpH条件下での熱力学特性を明らかにすべく、pH 4.0から7.5におけるR2R3の構造安定性解析を行った。遠紫外CDスペクトル測定では、α-ヘリックスリッチな構造がpH低下とともに崩壊した一方で、近紫外CDスペクトルではある一定の構造を保持することが判明した。また、α-ヘリックス含量は、pH 6.5で最大となり、pH 7.5にかけて徐々に減少して行った。一方、DSCにより得られた熱安定性は、pH 5.0において最も高く、pH上昇とともにΔH依存的に減少していた。さらに興味深いことに、構造形成を示すα-ヘリックス含量と熱安定性の指標であるΔGとの間に特徴的な相関が見られなかったものの、ΔHとの間では直線的な相関があることを明らかにした。以上より、生理的条件下に近いpH 7.5においては、ΔG、ΔH、ΔSいずれも熱力学的に最も有利とはならず、ある一定の柔らかさを持つ状態で存在することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年次計画として、生理的条件下での動態を明らかとすることを目標として研究を進めた。温度・pH特性ともに、一定の成果が得られ、原著論文にも掲載済みである(Inaba et al., FEBS J., 282, 4497-4514, 2015; Inaba et al., Int. J. Biol. Macromol., 82, 725-732, 2016)。また、リピート間のリンカー領域の柔軟性を変化させることで、構造揺らぎが変化し、これらが構造安定性のエントロピー項として反映すること明らかにした。これらの結果も、原著論文に掲載済みあり(Inaba et al., J. Therm. Anal. Calorim., 123, 1763-1767, 2016)、さらに次年度の研究計画として予定していた、一分子測定(DXT)や高圧測定の条件検討も進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
対象タンパク質のシグナル帰属を終えたので、次は高圧蛍光およびNMRにより、高圧下で検出されうる準安定構造の詳細な解析を進める。加えて、1 GPaまで加圧可能な高圧IRも適用し、対象タンパク質の持つ圧力転移点なども決定する。これまでの予備実験から、高圧蛍光やNMRで測定可能な圧力範囲(概ね700 MPa)においても変性構造や転移点は観測されていない。それぞれの測定で得られる情報を相互に評価しながら、準安定構造の特性を探る。一分子観測に関しては、測定に必要な変異体の取得は既に成功しており、高輝度X線照射による金ナノの回折点も確認済みである。今年度は、複数条件下での測定を進め、特に熱測定やNMR等から得られる他分子系での結果が、一分子測定で得られるアンサンブル量と如何に相関するかを評価する。さらにSAXSにより、動径分布を評価し、分子全体あるいは一分子レベルでの挙動、さらにDNA結合(機能)に関わる熱力学量等を多角的に評価する。
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Research Products
(8 results)