2015 Fiscal Year Annual Research Report
新生仔大脳皮質の入力依存的な神経回路発達ダイナミクス及びメカニズムの解明
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15J03643
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
中沢 信吾 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 神経科学 / 発達 / イメージング / 大脳皮質 / バレル / in vivo / タイムラプス |
Outline of Annual Research Achievements |
大脳皮質の神経回路は生まれた時には未成熟であり、生後に神経活動依存的に再構築され、機能的に成熟した回路となるが、その機構には多くの謎が残されている。私は、マウス大脳皮質体性感覚野の「バレル」をモデルとし、その機構の解明を目指している。バレルはげっ歯類体性感覚野第4層に存在する、ヒゲ感覚の基盤となる神経回路である。個々のバレルでは、1本のヒゲからの情報を伝える視床皮質軸索群が1つのクラスターを形成し、それを取り囲むように第4層spiny stellate neuronが配置、その樹状突起を選択的にバレルの内側に伸ばしている。この方向性により1つのspiny stellate neuronが1本のヒゲからの情報を選択的に処理すること、またこうした特徴的な形態が生後1週間の間に神経活動依存的に形成されることから、バレルは機能と形態が同調した神経回路発達のモデルとして多く用いられてきた。しかし、未成熟な第4層神経細胞がどのような過程を経てspiny stellate neuronに分化し、バレルを形成するのか、その細胞動態は依然不明なままであった。この課題に取り組むため、私はバレル形成の全主要過程を通した新生仔マウス大脳皮質のin vivoタイムラプスイメージングを試みている。これまでに当研究室は生後5日齢から18時間に及ぶin vivoイメージング技法を開発し、spiny stellate neuronの樹状突起の方向性強化動態を報告した(Mizuno et al., Neuron 2014)。私はさらに早い時期から長期間に及ぶタイムラプスイメージングを行うため、技法の開発・洗練に取り組んできた。その結果、バレル形成の最も重要な期間を通した長期タイムプススイメージング手法を確立するに至った。さらにそのイメージング技法を通して、未成熟な細胞のspiny stellate neuronへの分化過程、樹状突起方向性の獲得過程の動態解明を進めている。この研究により、大脳皮質神経回路の生後の再構築機構が明らかにできるであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大脳皮質の神経回路は生まれた時には未成熟であり、生後に神経活動依存的に再構築され、機能的に成熟した回路となるが、その動態はほとんど不明であった。組織学的解析より、バレルの形成は生後3日から6日ごろの間に大部分が進行することがわかっている。私はバレル形成過程の全主要過程を観察するために、生後3日から6日齢のタイムラプスイメージングを目指して技術改良を行ってきた。当研究室はこれまでに生後5日齢から18時間の撮影技法を開発していた(Mizuno et al., 2014)。私は同様の技法により生後3日から6日齢の撮影を試みた。バレルの標識には当研究室で開発された視床皮質軸索特異的GFP発現 Tgマウスを用い、in vivoでのバレルの可視化を行った。第4層細胞の標識には単一細胞標識法(Supernova法, Mizuno et al., 2014)により高輝度かつまばらな標識を行うことで、その成長過程の形態観察を可能にした。しかし、2つの大きな課題が立ちはだかった。1つは手術の難しさである。撮影のためには観察用器具を新生仔の頭部に装着する手術が必要だが、生後間もない仔は弱く、頭蓋骨が非常に柔らかいため、手術は非常に困難であった。この問題に対し手術手技の見直し・洗練を進めることで、生後3日齢での手術が可能となった。もう1つの問題は仔育てである。仔の成長には母親のケアが不可欠であるが、手術を行った仔を母親に戻すと、観察用器具が壊されてしまうことが問題になった。この問題を解決するために新しい観察用器具の設計、母仔の飼育条件の検討を進めた。その結果、手術をした仔の、観察用器具を保ったままでの母親との6日齢までの飼育が安定して可能になった。仔の体重の増加、及びバレル形成に大きな異常がないことも確認した。これらの技術を組み合わせることで、生後3日齢から、その後8時間おき、生後6日齢までの72時間に渡る同一細胞の細胞動態の観察に成功している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、生後3日から6日という、バレル形成の主要部分全体に渡る長期タイムラプスイメージング技法を確立し、実際に撮影を行い、データを収集してきた。今後はデータ数を増やすと同時に、生まれた時には未成熟な第4層神経細胞が仔の成長に伴いspiny stellate neuronに分化する細胞動態、分化したspiny stellate neuronの樹状突起がバレル内向き方向性を獲得して1本のヒゲからの情報を選択的に処理するようになる過程、それらの軌道や振る舞いの様式を定性/定量解析を通し明らかにしていく。加えて、より細胞が未成熟な状態から観察することでさらに多くの情報を得るため、1日早い生後2日目からの撮影を行い、生後1週間の間に1つの神経細胞に起こるダイナミックな変化を撮影、解析することを目指す。これらの解析により、バレルにて1つの未成熟な神経細胞がマウスの成長過程でspiny stellate neuronに分化し、樹状突起の方向性からヒゲ選択性を獲得する機構、つまり「動物の成長に伴い神経回路が再構築され、1つの未成熟な神経細胞が特定の神経回路に組み込まれ機能するようになる機構」という神経回路発達機構の本質的な課題に迫ることができると考えている。その先に、正常な神経活動を阻害したマウスでの動態変化や、蛍光カルシウムプローブを用いた第4層神経細胞の活動のパターンの解析により、神経活動が神経回路再構築に関与する機構の解明も解明できると考えている。
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Research Products
(8 results)