2015 Fiscal Year Annual Research Report
マルコフ連鎖の脱乱択化:決定性近似アルゴリズム設計に対する新しい汎用手法の開発
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15J03840
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
白髪 丈晴 九州大学, システム情報科学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | ロータールーターモデル / マルコフ連鎖 / 総変動距離 / 全訪問時間 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の主な成果として、主に以下の2点が挙げられる。 1つは総変動距離の解析である。申請者の進めている決定的過程と確率過程の差の研究において、既存研究では主に解析の困難さから単一頂点誤差という指標でしか研究が為されていなかった。しかし、本研究の目標でもある乱択アルゴリズムの脱乱択化、特にMCMC法の脱乱択化には両者の総変動距離を解析する必要がある。従ってこの研究を進め、その上下界の導出に成功した。この下界は、任意の対象となる構造に対し、総変動距離が対象の状態数となる例が存在する、という下界であり、これは単純に現在扱っている決定的過程である関数ルーターモデルをマルコフ連鎖の代わりに用いても、MCMCの脱乱択化が出来ないことを示している。またこの解析の中で単一頂点誤差の上界も導出でき、この上界は既存研究中でも最良のものとなっている。最終目的であるMCMC法の脱乱択化の為、まず特定の構造に対し、かつMCMC法で用いる特定の部分集合に対し集合間の誤差を小さくする決定的過程の設計が必要となる。 2つ目は全訪問時間の解析への応用である。全訪問時間はランダムウォークを用いてネットワークの探索へ応用する際に重要となる特徴量であり、ここまで多くの研究が為されている。また、単純ランダムウォークの模倣であるロータールーターモデルに関しても全訪問時間が解析されていたが、一般の遷移確率を扱える関数ルーターモデルに関しては未解決だった。本研究ではこのモデルに対し上界を与えることに成功し、また既存のロータールーターモデルの上界も改良した。この研究において関数ルーターモデルの全訪問時間の解析と総変動距離、単一頂点誤差の解析の関連が明らかになった。全訪問時間、到達時間の精密な研究が上記の総変動距離の解析に生きる可能性があり、 今後このアプローチからもMCMC法の脱乱択化に迫る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
総変動距離の上界は下界とのギャップが非常に小さな値まで迫ることが出来、解析が洗練されてきたことを伺える。また、この解析の中で得られた単一頂点誤差の上界は、既存の正則グラフ上での結果と比べても改善しており、またこの上界は任意のグラフ上で成り立つものであるため大きく既存研究を進展させることもできた。解析に用いるテクニックは遷移確率行列の収束性を巧みに用いるものであり、十分洗練されてきたと評価できる。また、一般の下界の導出により、今後の研究方針も殆ど定まった。この意義は大きい。 そして、ここまでの研究内容が全訪問時間という一見解析技法が全く異なる量の解析に応用できたことは大きい。全訪問時間に関しては、ランダムウォークに対してもトークン数が複数であったり遷移確率が一般の場合不明瞭な点が多い中で、関数ルーターモデルという決定的過程に関し複数トークンかつ一般の遷移確率に関し上界が得られたことは想定以上であった。この上界はランダムウォークの上界とそれほどギャップが無く、総変動距離という指標ではギャップが大きくなってしまうが全訪問時間では関数ルーターモデルがランダムウォークをよく模倣することが分かった。また、この上界はまだ改善できる可能性が残っており、即ち決定的過程によって全訪問時間の指標の上でランダムウォークを脱乱択化出来る可能性がある。 一方、研究目標であった特定の構造に対する集合間の誤差の解析はまだほとんど進展を見せていないため、この評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまでの研究を受けて、推進方針は大きく分けて以下の2つである。 1つは、特定の構造に対する集合間の誤差の解析である。任意の対象となる構造に対し、総変動距離が対象の状態数となる例が存在する、という下界をうけ、ここまでの解析により上界を押さえるために必要な量が遷移確率行列、到達時間の言葉で特徴づけが出来つつあるが、上界の導出まで至っていない。今後の研究で確率過程、固有値、固有ベクトル、カップリング等様々なアプローチからこの量の解析に挑み、問題の解決を試みる。より具体的には、順序構造が利用出来そうなイジング模型の分配関数計算に関するマルコフ連鎖の脱乱択化に臨む。その為に計算機実験を通しあたりを付けながら研究を進める。 2つ目は、全訪問時間の改良である。既存研究におけるβランダムウォークをはじめとした高速なランダムウォークの遷移確率行列に特化した解析を試み、関数ルーターモデルで全訪問時間の模倣を目指す。既に、単純ランダムウォークの全訪問時間の最も遅い対象となるロリポップグラフに対して関数ルーターモデルで全訪問時間の改善に成功しつつあり、進展が十分望める。アプローチとして遷移確率行列に基づくアプローチと決定的過程の周期性に関するアプローチが考えられるが、後者に関しては一般の確率行列に関した既存研究は存在しないため、一般の決定的過程の周期に対し研究も進め、全訪問時間の改良に挑む。 以上の研究に基づき、最終目標であるMCMC法の脱乱択化に関する研究を進める。
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Remarks |
ロータールーターモデル、ランダムウォークの簡単なプログラムファイルを公開している。
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Research Products
(9 results)