2015 Fiscal Year Annual Research Report
ハイデガー思想の「根源」の問題に関する哲学史及び現象学的研究
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15J03886
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
小田切 建太郎 立命館大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | ハイデガー哲学 / 現象学 / 中動態 / かまど / ヘルダーリン / ヘラクレイトス / ギリシア哲学 / プラトン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、まず、ハイデガーの初期と後期思想における現象の《中動態》と《媒体性》の関連に関する解明を行った。初期ハイデガーが一貫して再帰表現・《中動態》に注意を向け、それによって哲学的思考を試みていること、そこでの関心が主観的意識による自己の客観的対象化的な反省的再帰性に対抗する、「情感/気分」に基づいた非対象化的な「生/現存在」の(地平構造における)再帰的自己把握の解明にあったことを明らかにした。同じく《中動態》の観点から、後期思想の「エルアイクニス」に焦点を当て解明した。これを他動詞的とする従来の見解が一面的であり、〈エルアイクニス〉の事象が全体的・統一的には、中動‐再帰的動態をその本質的動態とすることを明らかにし、これを世界に先駆けて初めて明確な仕方で示した。 つぎに、本研究は、《かまど》の精神史に関する哲学的考察を行った。ひとつには、ヘラクレイトスの伝承に登場する《イプノスとしてのかまど》と、祭祀的・神話的意味を持つ《ヘスティアとしてのかまど》との結びつきから、ハイデガーの解釈における《イプノス/かまど》の媒体機能に存する真理論的及びコスモロジー的含意を明らかにした。もうひとつには、ヘルダーリンの讃歌に関するハイデガーの解釈に関して、《かまど》の精神史・プラトン哲学を背景に置きながらその歴史的時間的な媒体的性格を明示した。三つめには、プラトンにおける術語の語を背景に置いて、ハイデガーのソフォクレス解釈における《かまど》の核心的重要性について、そのコスモロジー的含意から解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、言語学の言う「態・相」のひとつである《中動態》の観点から、初期ハイデガーにおける現象概念と、同時に、後期思想の根本問題である「エルアイクニス」に関して解明を行い、これにより、ハイデガー哲学全体を体系的に明らかにすることを主要な課題としていた。まずハイデガーの初期の主著『存在と時間』(1927)における現象概念の中動態的な含意に関して、従来の先行研究を越えてより明確に示した。つぎに、中動態の観点から、「エルアイクニス」に焦点を当てた。「エルアイクニス」は、従来の国内外の諸研究により他動詞的動態を取ると見なされてきた。対して、本研究は、「エルアイクニス」が中動態をその本質的動態とすることに成功した。これにより、ハイデガーの初期思想と後期思想の中核的問題事象に共通する動態が中動態として明らかになるに至った。本研究は、ハイデガーの初期から後期までの現象性の中動態の所在としての《根源》に関して発展史的解明を遂行するなかで、当初明確には予想していなかった《かまど》の問題を発見した。これは、初期ギリシアの詩作・哲学・天文学等さまざまな問題に関わる。これにより、本研究は、予想以上の豊かな哲学史的及び現象学的研究の問題領域を拓くことに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、《中動態》の問題と《かまど》の問題に関して、さらに詳細かつ広範な研究を進めていく予定である。今後も学会発表、論文投稿を行う。また、これまでの成果の発信と、研究の発展・深化のために、プラハ・カレル大学(チェコ)、もしくはウィーン大学(オーストリア)での研究滞在を計画している。
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