2015 Fiscal Year Annual Research Report
歴史認識の形成に関する人類学的研究:南北エチオピア、ライヤにおける口承史比較分析
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15J03983
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
大場 千景 大阪府立大学, 人間社会学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 口頭伝承の録音 / 現地語によるテクスト化 / 口頭伝承の邦訳 / 第一次史料の作成 / 無形文化財の保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は、本研究の目的の一つである18世紀にエチオピア北部と南部に分裂して居住するようになったライヤの人々がそれぞれ北部と南部でたどった約2世紀の歴史を再構成するために、南部のライヤの居住地域であるオロミア州バーレ県において口頭伝承の収集および録音を行なった。昨年度に収集した伝承に加え、さらに2012年より収集及び録音してきた同地域及び、ティグライ州南部地域に暮すライヤの口頭伝承をすべてまとめて、テープおこしを行ない、そうしてできた現地語テクストを日本語に翻訳するという作業を行った。その際、テープおこしは、オロモ語を母語とするガルガロ・ダラッチャに依頼した。出来上がったオロモ語のテクストを日本語に翻訳する際は、オロモ語を母語とするアンガース・ローバの協力を得て、わからない語彙や伝承の背景となっている文化に関してオロモ語でやりとりしながら、私自身が理解を深めつつ、邦訳をおこなった。 その結果、世界で初めて同地域における移住、紛争、天災に関する歴史、法や社会組織に関する伝承、歴代のリーダーや予言者あるいは宗教的指導者たちの伝承などを収録した第一次史料の作成に成功した。その分量はワードファイルおよそ900頁に及ぶ。これにより、今後、申請者が本研究を進めていくことが可能になっただけでなく、この第一次史料そのものが人類学、歴史学、言語学などの分野において、他の研究者が研究を行っていく際の一つのデータとして寄与することができるだろう。また、20世紀から現在にいたるエチオピア全体にわたる政治的経済的変化の下で、消えゆく言語、慣習、伝承などの無形の文化財を文字化によって記録することで、同地域に暮す次世代へと伝える一つの助けになるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に本研究の最重要データである、ティグライ州南部地域とオロミア州バーレ県に居住するライヤの人々の口頭伝承がそれぞれ収集され、現地語テクストの作成とその翻訳が完了し、ワードファイル900頁に及ぶ第一次史料を獲得することができたからである。この作業が昨年度完了したことにより、この第一次史料にもとづいて論考を展開させ、論文の執筆が可能になるとともに、本年度においてさらに発展した現地調査を進めることが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度収集した伝承やフィールドノートを整理し、比較的に分析しながら、論考を展開させていく。そして、昨年度行った調査を反省しながら、さらに聞き取りの精度をあげて、伝承の収集を続ける。 本年度は、ライヤの18世紀の移住の歴史を叙述するために、伝承に基づいて移住経路を実際に歩いて検証しながら、移住がなぜ、どのようにして行われたのかを具体的に明らかにする。また、オロミア州バーレ県及びティグライ州南部において、村落に長期滞在しながら、伝承だけではなく、生業、社会、宗教のあり方に関する参与観察を行う。以上のような調査に基づき、南北ライヤ社会のそれぞれの18世紀以降の歴史に関する叙述を行なう。
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Research Products
(10 results)