2016 Fiscal Year Annual Research Report
歴史認識の形成に関する人類学的研究:南北エチオピア、ライヤにおける口承史比較分析
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15J03983
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
大場 千景 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 無文字社会の歴史 / 口頭伝承 / 声の文化 / 移住史 / 歴史認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1)エチオピア北部と南部に離れて暮らすライヤの人びとの歴史を叙述すること、2)それぞれの社会で収集した口頭伝承を比較考察しながら、歴史記憶や歴史認識の形成のあり方について明らかにすることである。 昨年度は、ライヤの移住伝承をもとに、これまで調査してきたティグライ州南部、バーレ県東部のみならず、シャワ県東部、アムハラ州東部においてフィールドワークを実施し、同地で暮らすライヤの人びとを新たに発見した。さらに、それらの複数地域を踏査し、移住伝承を収集しながら、ライヤの移住の時期や移住の経路を同定することができた。 ライヤの人びとは、14世紀前後から18世紀までの間にエチオピア北部と南部を複数回往復する形で移住を行ってきたことがわかった。これは当初申請者が考えてきた17世紀におけるエチオピア南部から北部への一回きりの移住という仮説や、これまでのエチオピア史の中でいわれてきたような16世紀における南部から北部への突然の大移動という歴史像をぬりかえるものとなった。 さらに、申請者は複数地域を踏査する過程で各地で伝承の聞き取りを行い、録音した。これらのデータは今年度において、文字おこしや翻訳を行う予定である。そして、これまでティグライ州南部やバーレ県において収集し、すでに同様の作業を経てテクスト化している口頭伝承と合わせて比較的に分析をおこなっていく。その過程で、目的2)の問題について明らかにしていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度、複数地域を踏査し、伝承を収集したことによって、ライヤの移住史を叙述するための必要不可欠な口頭伝承を集めることができた。このことにより、移住時期や経路、移住を促す要因や歴史的背景などライヤの移住史に関わる様々な新しい歴史的事実があきらかになってきた。さらに、これまで口頭伝承を収集してきた地域とは違う地域で、口頭伝承を新たに収集することができた。これで、本研究を進めていく上での土台ができあがったといえる。 今年度は昨年度までに得た史料に基づいて、実際にライヤの歴史を叙述していくことができるようになった。さらに、昨年度において、複数地域で集めた伝承を今年度において翻訳していく予定である。伝承のアーカイブ化を進めていくとともに、それらの伝承を、これまで収集してきた伝承と合わせて比較的に分析していくことを通して、歴史認識の形成にかんする論考を展開していくことができるようになった。従って、本研究はおおむね順調に進展しているといえるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、前年度までに得てきた、文献史料や複数地域から収集した伝承をもとに、ライヤの歴史に関する叙述を行っていく予定である。すでにその論述を始めている。 さらに、昨年度にオロミア州シャワ県およびアムハラ州ウォッロ地方において集めた伝承のテープおこしと翻訳を行う予定である。そして、これまで収集してきた複数地域からの伝承とあわせてすべての伝承を比較的に分析しながら、歴史認識の形成に関する論考を展開させていく予定である。 それらの成果を論文として国内外の関連する学術雑誌に投稿したり、本として出版していくために、まとめていくつもりである。
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Research Products
(3 results)