2015 Fiscal Year Annual Research Report
越境的なモノが織りなす地域間ネットワークの研究―沖縄のレコード・楽器を対象に
Project/Area Number |
15J04047
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
栗山 新也 国際日本文化研究センター, 研究部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 移民 / 沖縄芸能 / 物質文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画のうち、本年度は、三線が、いかなる過程で移民・出稼ぎ地へと渡ってきたのか、その後どのような人間関係の中で継承されたのか、また三線が継承される過程で、人々がそれにどのような意味や価値を付与してきたのかを明らかにすることを目的に調査を遂行した。 研究方法は沖縄、ハワイでの文献調査、現物調査、聞き取り調査であった。調査の結果、以下の点が明らかになった。移民の開始から移民が完全に禁止される1920年代までは、沖縄移民が日用品、食料、土産などとともに三線を携行することで徐々に渡った。1920年代後半から1930年代にかけては、経済的成功をおさめ一時的に帰郷した沖縄移民が仲買人から三線を購入し、ハワイへ再渡航する方法で渡った。仲買人は名器の所在に詳しく、またハワイ移民のリーダー的人物や、御殿の名器に接触することができた者と交友関係があるなど、沖縄とハワイとの双方に多彩な人脈を持っていた。 次いで、ハワイに渡った三線のその後の推移の一端として、戦後ハワイから沖縄へと再び戻っていった「里帰り」三線の事例を示し、そこにどのような意味や価値が付与されてきたのか検討した。その結果、「里帰り」三線には文化財的価値、楽器としての実用性、珍しさ、形見の品などの多様な価値が付与されていたことが明らかになった。さらに他地域の事例として、ブラジルから沖縄に戻ってきた「里帰り」三線の事例も収集し、三線に対してブラジル移民一世を象徴するモノ、という意味付与がなされていたことを明らかにした。 本年度の研究では、三線が独自にもつ地域間ネットワークを媒介する力を明るみに出すとともに、三線の多様で重層的な意味や価値のあり方を明らかにした点に大きな成果があったといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、沖縄・ハワイでの現地調査も順調に進み、個人所有のレコードや楽器などの現物資料、沖縄芸能関係者や三線職人への聞き取り調査、沖縄の新聞やハワイの邦字新聞、博物館が発行したパンフレットの収集などの作業も順調に進んでいる。また受け入れ研究者から助言を得ながら、収集した資料を深く分析し、研究成果へと導くことができている。以上の理由から、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果を踏まえ、今後は次のような点を課題とする。(1)ハワイの二世や三世に継承されている三線の来歴と、そこに付与されてきた意味や価値のありかたを明らかにする。(2)三線の産業的な特徴を明らかにするとともに、移民と沖縄とを結ぶ三線製作のネットワークを明らかにする。(3)人の移動に伴って世界各地に渡った他の大衆楽器と比較しながら三線の移動の特徴を明らかにする。
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Research Products
(4 results)