2016 Fiscal Year Annual Research Report
戦後日本における「難病」対策の形成と変容に関する医療社会学的研究
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15J04129
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
渡部 沙織 明治学院大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 難病 / 医療政策 / 公費医療 / 研究医 / 疾患名モデル / Rare Diseases / 国立療養所 |
Outline of Annual Research Achievements |
戦後日本における難病政策の形成と変容について、従来の先行研究では患者のコンフリクトや私的病院の役割に着目する一方で、研究医とその存立基盤である公的病院が難病政策に果たした機能は検証されてこなかった。申請者はこれまでの研究により、日本における難病の公費医療では、研究事業の運用において研究医が主要な政策医療のプロバイダとなってきたことを明らかにした。 本研究は、その成果を踏まえて、日本における難病の公費医療の特質を「疾患名モデル」と位置づけ、これまで未解明だった難病政策の歴史的メカニズムの解明を行った。戦後福祉国家の医療政策において一般医療政策とは異なる手段によって資源配分がなされてきた難病の医療政策の実相を、国費による医学研究事業に着目し検証を行っている。戦後の旧国立療養所の病床転換に関する統計データや、厚生省・厚生労働省の難病研究班の公的資料など関連するデータを再統合し、質的・量的両面から検証を行った。 研究の結果、研究と患者の治療が一体化した研究主導型の公費医療が、皆保険の領域外で医療保障を担ってきた経緯が明らかになった。公費医療の目的は、一般に患者の救済をその使命とすると考えられており、医療保障の手段として難病政策を捉える見方は先行研究にも少なくない。しかし研究の結果、難病の公費医療は患者が臨床データを国に提供する見返りとされてきたことが明らかになった。国費による研究班が組織されその構成員である研究医と呼ばれる高度な専門性を有する医師が、疾患の医学研究事業と政策形成を複合的に担ってきた。また、旧国立結核療養所の結核病床が、1970年代以降に多様な難病病床へと変容したことを統計データの再統合により実証的に明らかにした。また、先進諸国のRare Diseases政策を3つのタイプに分類し、類型化を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の平成28年度では、平成27年度より継続している難病政策に関する歴史資料のアーカイブ化と分析作業に並行して、「疾患名モデル」の類型化と分析を行った。 戦後の日本の難病政策では、世界でも特殊な形態で研究主導型の公費医療が運用されてきた。研究医を構成員として疾患毎に研究班が組織され、病態概念を確立し、研究謝金として患者へ医療費助成を行う日本の特殊な難病政策の形態を、本研究を通じて申請者は「疾患名モデル」と位置付けてきた。「疾患名モデル」の形成と変容のプロセスについて、難病対策要綱体制以降、疾患毎に編成され拡大した研究班に関する資料調査を実施し、戦後の研究班体制の推移について検証した。また、戦後の旧国立療養所の結核病床推移と難病病床推移の統計データを再編・再構築し、これまで殆ど先行研究が存しない公的病院の難病病床の量的変遷について、基礎的な研究を行った。 また、「疾患名モデル」の国際的な位置について、比較研究を行った。Rare Disease政策に関する難病の公費医療の社会支出は国際的にも未整備だが、国際比較の基礎研究に必要な質的・量的要素について検討を行った。更に「疾患名モデル」に基づいて、先進諸国のRare Diseases政策を3つに分類し、類型化を試みている。 上記の活動は本研究の目的と計画に添うものであり、研究の達成度は、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究によって、一般医療政策の周縁で、日本と諸外国で医療ニーズが高い患者に対する公費医療が提供されてきた経緯が明らかになり、特定の患者に対する研究主導型公費医療が福祉国家にもたらした機能が示唆された。今後の推進においては、疾患名モデルに基づく国際的な比較研究を実証的に実施するために必要な指標・データの整備が必要となる。 本研究の研究成果を発展させ、難病政策の国際的な全体像を把握するためには、国・自治体レベルのデータの再統合と並行して、比較研究を実施していくことが求められる。従来の一般医療の過去の公的資料を用いた政策研究では、国レベル・自治体レベルの一律の公費医療改革の財政データを明確に分けられないまま取り扱われてきたため、公費医療の影響を精緻に検証する事は難しかった。一方で、実際の政策導入や改革においては、難病対策の方針は国レベルで策定されるものの、国と自治体が税収を財源とする予算を半分ずつ折半するため自治体の役割はきわめて大きい。また、都道府県毎に設置されている国立病院が難病の事業を推進した実相も検証されていない。これらの問題を克服するためには、研究事業名目で予算請求されてきた公費推移を、国・自治体の双方で医療政策として再整理し直す作業が必要となる。さらに、国立病院が結核から難病の病床へ推移した実相について、未統合のナショナルデータを再構築する。サブテーマについては、実証的な国際比較研究の基盤を構築するためには、先進諸国のRare Diseases支出に該当する項目をOECDデータ等を基に推定し直す作業が求められる。
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Remarks |
申請者(=渡部沙織)は、難治性疾患患者として筆名「大野更紗」で研究・執筆活動等を行っている。研究業績には、「大野更紗」の筆名で執筆・報告したものを含む。
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Research Products
(6 results)