2015 Fiscal Year Annual Research Report
文献史料を中心とした中世中後期における日本刀の社会経済的意義に関する研究
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15J04150
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宇佐美 こすも 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 日本刀 / 日本史 / 工芸 |
Outline of Annual Research Achievements |
文献史料をもとに日本刀が中世社会で果たした意義を明らかにすべく、初年度は主だった公家日記・武家日記の記載を調査すると同時に、なかでも特徴的な記載がある石山本願寺証如の『天文日記』に着目した。当日記には偽銘刀の贈答に関する記載が豊富にあるが、先行研究においては偽銘刀は敬遠されるべきものという以上の言及はなく、『天文日記』の状況を分析するには不足だと考えた。本年度は、当日記と故実書、刀剣伝書の記載を併せて検討することで、刀剣贈答において重要なのは折紙(目録)と贈物とが一致しているか否かであって、刀身の真贋自体はそこまで重視されていなかったことを指摘し、成果は学内・学外でそれぞれ発表した。 併せて、日本刀の研究を進めるにつれ、現代社会が日本刀に抱く印象が中世当時のものと大きく異なっていることに気付いた。調査をしてみると、各時代の政策やメディアとの関わりによって様々な日本刀イメージが生み出され、それが現代まで伝わっているようである。つまり、歴史的事実ではないものが社会を動かしている、ということになる。それは現代に始まったことではなく、中世でも『平家物語』の剣巻や各種伝説が実際の刀剣観に影響を与えることもある。中世の刀剣を考察する上では、そのような影響も看過できない。そのため本年は、厳密には歴史学の範囲ではないものの、刀剣の「イメージ」の変遷と要因、という視点からも考察を行い、主に外国語で発表を行った。 当初は中世史料にのみ着目する計画であったが、上記のように、刀剣観という点では現代との比較対象が研究にとって有用であることが分かり、歴史研究も現代と無縁ではないことに気付いたことも、当該年度に得た大きな知見の一つであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度において、研究発表は多く行ったものの、それらを論文にまとめるには至っておらず、成果発表の点でやや遅れていると判断した。 研究発表については、日本語・外国語それぞれ2つずつ計4回行い、そのうち日本語発表1回は全国学会、外国語発表1回は国際学会であった。それぞれの発表においても、内容は参加者の賛同を得、充実した質疑を行った。 しかし、それらの内容を論文にまとめ発表するには至っていない。原因として、まず本人が学術雑誌論文の執筆に初めて取り掛かるため、形式や内容の点で不備が多く作成に予想以上の時間がかかったことが挙げられる。次に、学会発表では発展的な内容を扱ったものの、刀剣研究の基礎的な部分でも押さえておくべき事項が多く(たとえば公家日記の「剣」と「太刀」という表記は同一物を指している、ということ)、それらの整理・論文執筆に先ずとりかかっていたためである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず当該年度で発表できなかった論考をまとめることを急務とする。それらは今後における自らの論展開に必要なので、その点でもしっかり足場を固めておきたい。その上で、主に中世後期以降を対象として、史料中の刀剣関連記事の調査、および前時代との比較を通じて刀剣の社会的位置づけの変遷をたどってゆく。史料は主に武家日記・公家日記・武家故実書を対象とし、加えて中世の刀剣伝書や文学作品も用いる計画である。
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Research Products
(4 results)