2015 Fiscal Year Annual Research Report
高速3次元走査型力顕微鏡の開発と固液界面現象の時間発展計測への応用
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15J04167
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
宮田 一輝 金沢大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 原子間力顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、液中において試料表面を高速かつ原子分解能で観察できる高速周波数変調原子間力顕微鏡(高速FM-AFM)による応用計測と、試料表面の水和構造を直接可視化できる3次元走査型力顕微鏡(3D-SFM)の高速化に取り組んでいる。本年度は、高速FM-AFMによる応用計測として、イオン結晶の一つであるカルサイトの溶解過程のその場観察を行い、その溶解メカニズムの解析に取り組んだ。 これまでにもカルサイトの表面は、X線光電子分光法(XPS)や赤外分光法(IR)などによって、マクロなスケールにおける表面構造や特性が解析されてきた。しかしながら、成長や溶解過程における結晶ステップの挙動を原子スケールで直接計測することが難しかった。また従来のFM-AFMではカルサイト表面の原子構造は見えたものの、1フレームに60秒程度の時間が必要であったため、ステップの挙動をリアルタイムに観察することは難しかった。そこで本研究では、FM-AFMを構成する全ての要素を広帯域化した高速FM-AFMを用いることによって、純水中においてカルサイトの表面を1フレーム2秒で観察し、結晶溶解によってステップが移動していく様子を直接計測することに成功した。また、このステップに沿って、単原子未満の高さと数ナノメートル程度の幅を有し、テラスとは異なる構造を持つ遷移領域が存在することを初めて確認した。さらに得られたFM-AFM像を解析した結果、ステップから脱離する前のイオンが水和、もしくはイオンに対して水分子が解離吸着している可能性が高いことが明らかとなった。これは、カルサイトの結晶溶解は、ステップを構成する原子が「遷移領域のような構造」を取った後に「脱離する」という2段階プロセスであることを示唆している。 このように、高速FM-AFMを用いた固液界面における原子分解能その場観察によって、結晶溶解に関する新たな知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本来の予定では、本年度中に高速3D-SFMを開発する予定であったが、完成には至らなかった。ただし、この高速3D-SFMは高速FM-AFMを発展させた技術であることから実現は難しくなく、既に装置を制御するコントローラのファームウェアは完成している。次年度中にはソフトウェアの開発を完了させ、運用が可能となる見込みである。 一方で、高速FM-AFMにおける応用計測では、溶解するカルサイトのステップ近傍に遷移領域が存在することを世界で初めて発見した。さらに遷移領域の解析を進めており、想定以上の成果が得られている。 以上を総合的に評価すると、本研究は概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、高速3D-SFMを完成させる。装置を制御するコントローラのソフトウェアを開発し、試験運用を行う。既にマイカやカルサイトのテラス部分における3D-SFM計測は報告されているので、これらを高速3D-SFMでも計測し、その結果を比較する。 また、溶解するカルサイトのステップ近傍において高速3D-SFM計測を行う。高速FM-AFMで観察された遷移領域では水分子の影響を強く受けていると考えており、遷移領域上の水和構造を直接計測することによって、結晶溶解メカニズムの解明に貢献できると考えられる。 さらに、膜タンパク質などの生体分子試料の観察を行う。この試料調製手順の確立を目指すと同時に、試料に対して光刺激を与えるための光照射システムを構築する。最終的に、光照射前後で生体分子上の水和構造を計測し、その構造変化を明らかにする。
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Research Products
(5 results)