2015 Fiscal Year Annual Research Report
J-PARCでのバンチ化中性子と大口径TPCを用いた世界最高精度の中性子寿命測定
Project/Area Number |
15J04202
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
富田 龍彦 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 中性子の物理 / 寿命測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、加速器で生成された中性子を用いての寿命測定実験であり、これは世界で初めての試みである。既存の中性子寿命を決定している他実験と独立な手法を用いることにより、これまでに問題となっていた系統誤差の要因を排除した高精度な寿命測定が期待されている。本年度は大強度陽子加速器施設(J-PARC)でビームを用いた物理測定を行い、統計誤差0(1)%精度のデータを取得した。現在このデータの解析をコラボレーション内で協力しつつ実行しており、2016年度中の値公開を目標としている。 当初計画していた物理データの取得量に対しては2015年5月のJ-PARC運転停止に伴い、予定を達することはできなかったが、限られたビームタイムの中で必要最低限のデータ取得は実施できた。また、ビームタイムが制限されたことにより新検出器の開発に向けた基礎データ取得もままならない状況となってしまったが、新しい読み出しシステム(ASICを用いた低発熱アンプの利用)のテストのためのシステムを九州大学に構築し、現在アンプの性能評価を行っている。また並行して新検出器のシミュレーションを用いた評価も実行しており検出効率や背景事象低減能力について計算を行っている。 本研究はこれまでの中性子寿命を決定してきた既存の手法間で生じていた差異を検証し、高精度で中性子の寿命を決定することを目的としており、これまでの実験からo(1)%精度での物理データを取得することができた。ビーム運転の中止はあったものの検出器及びビームラインの運転は良好に実施されており、ビームタイムが確保されればさらに統計を得ることが期待できる。今後はo(0.1)%精度での寿命決定を目指し検出器のアップグレードを行っていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度初めはJ-PARCにて中性子寿命測定を行い、~1%精度の統計量となる物理データの取得に携わった。しかしながら、4月末にJ-PARC/MLFターゲットでの冷却水漏出により5月以降の運転が停止したため、実際に取得した統計量は2%精度のものとなった。そこで2014年に取得したデータと合わせて~1%精度の統計量とし、この物理データの解析を行った。その中でも私は、モンテカルロシミュレーションを用いての中性子崩壊による事象の検出効率導出と、このモンテカルロシミュレーションにより検出効率を決定する際の系統誤差の見積もりを行った。 物理データの解析に携わりつつ、新TPC開発のための研究も並行して行った。~0.1%精度での中性子寿命測定実験に向けて、新TPC開発に必要な要件は、大型化・低ガス圧化が必要であるとコラボレーション間で合意が得られたため、これらに対する研究を遂行した。大型化に関しては、中性子をバンチ化するSpin Flip Chopper(SFC)の大型化に伴い、ビーム径が現在の約8倍に拡大することを踏まえ、受け入れ側であるTPCの大型化の必要性を検証した。ビーム導入口の拡大は必要不可欠であることが判明し、それに伴う新TPCの設計変更を進めている。 低ガス圧に関しては発熱量の少ないアンプの実装が必要不可欠であり、8ch ASIC プリアンプ(GTARN)を用いた読み出しシステムの開発を実施中である。読み出し系の開発のために、九州大学に小型のMWPCシステムを構築し現在これを用いて新アンプの性能評価と読み出しシステムの評価を行っている。 年度初頭に起きたJ-PARCでの冷却水漏出により、本年度の計画に関して変更を余儀なくされる部分があったが、研究は概ね良好に進展しており、新TPCの開発などの~0.1%精度での寿命測定実験のために必要な研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
J-PARCの運転中止により2015年度に取得できなかった物理データの追加取得を最優先事項として行う。また2015年度に製作したテストシステムを用いてのアンプの評価、及び読み出しシステムの開発を行い、新検出器の開発仕様を決定する。仕様決定後は設計・製作を行い、本年度中にビームラインに設置することを目標として研究を遂行する。現在課題となっている検出器内部の温度勾配問題を解決するために新アンプを用いての検出ガスの温度特性評価を実施し、中性子の寿命測定に対してどれくらいの影響があるのかを定量的に評価する。 また2016年度はo(1)%精度での中性子寿命の値を公開する予定であるため、引き続きこのデータ解析も行う。ここで得た解析手法は新検出器を用いての物理測定時にも利用できるため、精力的に参加していく予定である。
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Research Products
(1 results)
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[Journal Article] Development of time projection chamber for precise neutron lifetime measurement using pulsed cold neutron beams2015
Author(s)
Y. Arimoto,N.Higashi,Y.Igarashi,Y.Iwashita,T.Ino,R.Katayama,R.Kitahara,M.Kitaguchi,H.Matsumura,K.Mishima,N.Nagakura,H.Oide,H.Otono,R.Sakakibara,T. Shima,H.M.Shimizu,T.Sugino,N.Sumi,H.Sumino,K.Taketani,G.Tanaka,M.Tanaka,K.Tauchi,A.Toyoda,T.Tomita,T.Yamada,S.Yamashita,H.Yokoyama,T.Yoshioka
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Journal Title
Nuclear Instrument sand Methods in Physics Research A
Volume: 799
Pages: 187-196
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant