2016 Fiscal Year Annual Research Report
ストラップ修飾によるπ電子系の機能化と蛍光プローブへの応用
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15J04272
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鈴木 直弥 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ESIPT / 近赤外発光 / 発光性ポリマー / ソルバトクロミズム |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は, 機能性有機化合物の新たなコンセプトとして, π 共役系への機能性ストラップの導入を考案した. これまでに, アルキルアミンで分子内架橋したジチエニルピロール (DTP) が励起状態における分子内プロトン移動 (ESIPT) に基づく特異な発光特性を示すことを明らかにしている.本年度はこの DTP を用いた近赤外発光性化合物の開発に取り組んだ. DTP の大きな特徴の一つに, ESIPT の前後で HOMO-LUMO 軌道の分布が大きく変化しないことが挙げられる.すなわち,基底状態の大きな振動子強度が ESIPT 状態においても維持されるため,発光の長波長化と高い蛍光量子収率の両立が可能となる.この特徴を活かした分子設計として,DTP への電子受容性骨格の導入を着想した.標的分子として,チアゾロチアゾールおよびジケトピロロピロールをそれぞれ両末端に導入した DTP 誘導体を合成し,光化学特性を評価した.合成した誘導体はともに105 M-1 cm-1 程度の大きな吸光係数をもつことがわかった.また,発光スペクトルを測定したところ,チアゾロチアゾール体は THF 中で 749 nm に発光極大波長をもち,蛍光量子収率 0.29 の強い近赤外発光を示した.また,ジケトピロロピロール体の ESIPT 発光の発光極大波長は 950 nm と,これまでに報告された中でも長波長の発光となった.さらに DTP とチアゾロチアゾールの共重合体を合成し,発光特性を評価した.得られた共重合体は、極性溶媒中で近赤外 ESIPT 発光を示した.この結果は,ESIPT 蛍光団を主鎖骨格にもつ近赤外発光共重合体の初めての合成例といえる.以上の研究から,近赤外発光材料の開発における機能性ストラップ鎖導入の有用性が明確に示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では機能性ストラップ鎖の導入という,機能性有機化合物の新たなコンセプトを提唱し,一般的な分子設計指針としての確立を目的とする.現在までに,このコンセプトに基づいて設計された DTP に関して,可視-近赤外領域で強い ESIPT 発光を示す種々の誘導体の開発を達成している.本年度は、DTP の近赤外発光性素子への応用を目標とした,発光波長のさらなる長波長化に取り組んだ.その中で,DTP への電子受容性骨格の導入が, 化合物の振動子強度に与える影響について詳細な知見を得た.予備的な量子化学計算から, 大きな振動子強度を獲得するためには,適度な電子受容性能をもつ骨格の導入が必要であり,過度な電子受容性は逆に蛍光量子収率の低下をもたらすことが示唆された.実際の光物性測定においても,この理論計算と合致する結果が得られている.この検討から,DTP を用いた近赤外発光材料の開発において,電子受容性骨格の選択に関する重要な知見が得られた. また,π共役長の拡長という観点から,DTP を用いた共重合体の合成検討を行い,DTP の発光性高分子の主鎖骨格としての有用性を見出した.従来の keto-enol 互変異性に基づく ESIPT 骨格では,分子構造の制限から,π共役系の拡張を伴った重合が困難であった.これに対し、DTP は両末端のチオフェン環からの拡張が容易である.検討の結果,得られた共重合体は近赤外発光を示し,ESIPT 挙動を維持した重合が可能なことが明らかとなった. 以上の検討から得られた化合物群は,近赤外発光性素子への応用が期待される.よって本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き,新規 ESIPT 化合物の合成・応用展開を進める.特に現在までに得られている近赤外発光性化合物群に関して,発光性素子への応用を検討する.具体的には,低分子量の化合物については,OLEDs への応用を目指す.現状の問題点として,分子量が大きく,蒸着による発光層の作製が困難なことが挙げられる.量子化学計算と合成の双方から,ESIPT による近赤外発光を示しつつ,分子量を削減する分子構造の探究を行う.また, 近赤外発光性 ESIPT 共重合体に関しては,発光性ポリマーを用いた Light-emitting electrochemical cells (LEC) への応用を目指す.LEC は単層の発光層からなる発光性素子であり,発光時の電圧閾値の低さなどの長所がある.その一方で,利用可能な発光性ポリマーに条件があり,特に近赤外発光を示す素子の報告例は少ない.この課題に対し、フェルスター型共鳴エネルギー移動 (FRET) を利用した近赤外発光素子の作製を着想した.LEC を作製可能な発光性ポリマーから,本年度合成した ESIPT 共重合体へとエネルギー移動させることで,近赤外発光を達成できると考えた.FRET 効率,ESIPT 挙動の有無,相溶性など, あらゆる視点から分子構造の最適化を行い,高効率な LEC 素子の作製を目指す.
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Research Products
(1 results)