2015 Fiscal Year Annual Research Report
中国における小人像の学際的研究―ビン南を中心とする南海文化との関係を手がかりに―
Project/Area Number |
15J04462
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大谷 亨 東北大学, 国際文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 小人 / 巨人 / 表象 / 民間伝承 / 福建 / 台湾 / 無常鬼 / 山都木客 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、東北大学とノボシビルスク大学が共催する日露ワークショップにおいて、本研究の主題となる、巨人・小人の表象的差異について問題提起・意見交換をおこなった。 並行して、当初から予定していた『ビン都別記』の読解に取り組み、中国東南海沿岸地区の民間伝承における巨人・小人表象について調査を進めた。その中心的課題は、長躯と短躯がペアをなす無常鬼(白無常・黒無常)の描写について、民俗学的知見を援用した読解を試みることであった。殊に注目したのは、『ビン都別記』に記された「無常鬼と山都・木客の同根説」である。かねてより報告者は、長躯・短躯がペアをなす無常鬼像の生成原理に関心を向けており、上記の同根説が示唆する無常鬼と山都・木客のアナロジーが問題解決の関鍵を握ると考えたためである。このことは、無常鬼が中華圏広域で信仰される存在でありながら、長躯・短躯の形象が福建や台湾に固有の伝承であること、そして山都・木客という山精もまた長江以南に限定的に伝承される存在であること、などから推論されたものであった。 かかる仮説の検証作業として、本年度は以下の2つの作業を実施した。①まずは「無常鬼と山都・木客の同根説」の論理的正当性を、民俗誌との対照作業によって論考した。結果、長江以南の諸地域において無常鬼伝承と山精伝承が混同される事例を散見することができた。そのため、上記の同根説が当該地域の民俗文化を根拠とする記述であることが明らかとなった。②また、山都・木客等の山精について記された、およそ前漢から民国期までの各種資料を博捜し、その形象的特徴の整理・分類作業を実施した。結果、山精の形象には「短躯」「長躯」「体躯が伸縮自在」の3つのパターンが存在することが明らかとなった。かかる山精像の可変性、及び無常鬼像との影響関係については、次年度に実施する中国での現地調査を通じて、より精緻に検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
『ビン都別記』の読解を通じ、作業仮説の修正や今後取り組むべき課題が明確化した。一方、問題解決に必要とされる作業量が、当初の計画を上回ることも判明した。中国での現地調査を次年度に移行したことも含め、本年度の作業量は必ずしも十分でなかったと自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
台湾や福建の無常鬼(白・黒無常)に確認される、長躯・短躯という特異形象の生成原理とはなにか。これまでの考察では、「無常鬼と山都・木客の同根説」が問題解決の関鍵を握ると推論した。引き続き、かかる仮説の検証作業に取り組む。 具体的には、①通時的視点から、「目連救母」故事や『玉歴鈔伝』の各種テキストを資料とした文献史学的考察によって、無常鬼全般の歴史的動態を明らかにする。②共時的視点から、中国東南海沿岸地区をフィールドとした民俗学的調査によって、無常鬼伝承と山精伝承の混交の様態を(先行調査よりも詳細に)明らかにする。
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Research Products
(1 results)