2016 Fiscal Year Annual Research Report
沖縄思想史と知識人の規範的正しさの問題―高良倉吉の思想像―
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15J04497
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
古波藏 契 同志社大学, グローバル・スタディーズ研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 沖縄思想史 / 沖縄戦後史 / 沖縄労働史 / 沖縄財政史 / 冷戦史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題は、2000年に発表された政策提言「沖縄イニシアティブ」およびその起草者である高良倉吉の歴史叙述の沖縄思想史上の位置づけを明らかにすることである。前年までの研究から、こうした作業が沖縄思想史および沖縄戦後史研究の枠組みそのものの再検討の必要性が明らかとなっている。とりわけ既存の沖縄思想史の枠組みが沖縄戦後史上の「空白」期(1972年~1995年)によって制約されていることから、これを打開するため復帰運動の中心的な動因としての労働運動に焦点を置いて研究を進めてきた。これは反基地運動の不在という意味での復帰後の「空白」期を直接補填するのではなく、反基地運動の顕在化/潜在化といった現象を背後から規定する構造的条件に労働の分野からアプローチをかけるということである。本年度はこうした観点から研究を進め、沖縄戦後史における労働と財政の絡まり合いという新たな検討課題を発見した。 上半期には主に占領期前半の労働運動を研究課題として、史料の調査・分析と論文執筆に専念した。史料調査は主に沖縄県立図書館および法政大学沖縄文化研究所に所蔵される労働運動関係史料と沖縄県公文書館に所蔵される米国民政府(USCAR)および琉球政府の労働関係部署の関係史料を対象とした。1950年代後半から1960年代初頭の米国対沖労働政策の展開を主題とするものと、そうした政策転換にもかかわらず継続する労働運動と米軍統治の対立関係の意味を検討するものとの2本の論文に整理し、それぞれ『沖縄文化研究』(第44号)と『同志社グローバル・スタディーズ』(第7号)に論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
沖縄思想史研究は、その背景として、沖縄戦後史研究の蓄積を常に参照する。本研究で対象とする歴史家高良倉吉は、復帰前後期に歴史家としてのキャリアをスタートさせており、その研究の軌跡は復帰後という時期とぴったりと重なる。ところが、沖縄戦後史研究において同時期についての蓄積は浅く、いわば背景が白紙のまま思想史的検討を行わなければならないという困難を抱えていた。 前年度の研究では、こうした沖縄戦後史研究における復帰後の空白の意味として、労働分野を対象とする研究の欠落を発見し、本年度の研究課題として設定した。これを踏まえ、本年度は主に労働分野からの沖縄戦後史の再検証を進めてきたが、その過程で、財政分野からのアプローチの欠落とその導入の必要性を再発見している。それは労働分野との直接的な関わりにおいてのみならず、沖縄戦後史につきまとう振興・開発という問題の再発見を意味する。これらの主題は従来、基地受け入れの見返りとして位置付けられ、行政学・政治学等では検討対象とはなっても、戦後史・思想史的主題としては十分に検討されてきたとは言い難い。しかし、これを労働運動の趨勢を規定する条件として戦後史研究の文脈に再導入すると同時に、それによって「沖縄イニシアティブ」という提言を意味付けを考える上で強固な前提となってきた「基地か振興か」といった単純な二者択一の問題構成を相対化することが可能になる。当初の課題である沖縄戦後史への労働という主題の導入の意義を論文のかたちで明示しつつ、新たな検討課題を発見し得た事を踏まえ、当初の計画以上に進展したものと評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は年度内の博士論文提出を目標として、これまでの研究成果の集成を進める。これまで占領期・復帰後それぞれの時期について個別に枠組みを設定して研究を進め、修士論文及び投稿論文として発表しててきたが、博士論文に修正するにあたり復帰という区分を架橋する視座を確保するためにこれまでの研究の枠組みの統合を図る。 具体的には、本年度の研究成果を踏まえ、労働および財政の分野からの沖縄戦後史の再検討を進める。これらの分野は、1972年から1995年の「空白」期を直接補填するためというより、「空白」の生じる原因を沖縄戦後史の枠組みそのものへの問に転ずるための有効な視点であることがこれまでの研究から明らかとなっている。今後の研究では、示唆された沖縄戦後史の趨勢に財政構造が如何に作用したのかについて、同時期における他地域との比較対照、および復帰にかけての変化を捕捉することを通して検討を進めていく。これと並行して、これまでの研究で明らかにしてきた沖縄の戦後における労働運動の具体的展開と財政構造のありようとの関わりを探る。これらの作業により、復帰以降の展望を確保するための新たな戦後史の枠組みの構築し、「沖縄イニシアティブ」および高良の歴史叙述を置き直すべき文脈を明らかにすること目指す。
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Research Products
(2 results)