2015 Fiscal Year Annual Research Report
ショウジョウバエ自然集団における味覚感度の遺伝的多型を用いた糖受容機構の解析
Project/Area Number |
15J04525
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
内園 駿 九州大学, システム生命科学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ショウジョウバエ / 自然集団 / 味覚感度 / 遺伝的多型 / 糖受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究により、キイロショウジョウバエの自然集団から確立された近交系系統DGRP(Mackay et al., 2012)を用いた味覚嗜好性テストによって、ハエ自然集団内の糖の味覚感度に遺伝的多型があることを明らかにした。また、ハエの味覚器である唇弁を糖溶液で刺激し、味細胞からの神経応答を記録した結果から、野外のハエにはフルクトース感度が大きく異なる系統が存在することがわかった。そこで、ショウジョウバエの糖受容体候補遺伝子として考えられている9個のGr(Gustatory receptor)遺伝子に着目し、フルクトース感度への関与を調べた。 9個のGr遺伝子欠失系統とフルクトース低感度系統を交配して得られたF1のフルクトース感度を味覚嗜好性テストで調べた結果、Gr64a-fの6遺伝子すべてを欠失した系統とのF1のハエはフルクトース感度が低いことがわかった。一方で、ショウジョウバエの脳内で栄養センサーとして働くフルクトース受容体をコードしていることが報告されていたGr43a遺伝子(Miyamoto et al., 2012)の欠失系統とのF1のハエのフルクトース感度は、フルクトース低感度系統より高く、今回調べたDGRP2系統のフルクトース感度の違いの原因遺伝子ではなかった。そこで、Gr64a-fのうち5個の遺伝子の欠失系統とフルクトース低感度系統のF1のハエで味覚嗜好性テストを行い、どの遺伝子がフルクトース感度に関わるのかを調べた。その結果、Gr64b欠失系統とフルクトース低感度系統のF1のフルクトース感度がフルクトース低感度系統と同程度だったことから、野外のハエのフルクトース感度の違いにはGr64b遺伝子が関与していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの遺伝解析によってGr64糖受容体遺伝子ファミリーがフルクトース感度に関わることがわかってきた。当該年度中に、Gr64遺伝子ファミリーに属する6遺伝子うちGr64dを除く5個の遺伝子の欠失突然変異体が作製され(Fujii et al., 2015)、それらの系統を入手することができたので、Gr64a-fのどの遺伝子がフルクトース感度に関わっているのか調べることができた。 また、候補遺伝子の発現量解析をするにあたりセットアップが必要であった。しかし、大韓民国の研究機関KAISTへの滞在中に発現量解析前に必要な実験の一部を行うことができ、想定していたよりも短期間でセットアップを済ませ、発現量解析を始めることができた。 以上の理由から、当該年度にはおおむね順調に実験を進展させることができ、ショウジョウバエの自然集団内に存在するフルクトース味覚感度の遺伝的多型に関わる候補遺伝子を絞り込むことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実験により、ショウジョウバエ自然集団内のフルクトースの味覚感度の遺伝的多型にGr64遺伝子ファミリーが関わっていることがわかった。今後はまず、Gr64a-fのどの遺伝子がフルクトース感度の多型に関わっているのかを明らかにする。 Gr64dを除くGr64遺伝子ファミリーの個々の遺伝子欠失系統でグルコースとフルクトースを選ばせる味覚嗜好性テストにおいて、5系統すべてで、フルクトース高感度系統のハエでさえ選ばない低濃度のフルクトースをグルコースより好んで摂食した。Gr64遺伝子ファミリーはそれぞれ複数の糖の受容に関与していることが報告されており(Freeman et al., 2014)、これらの遺伝子の欠失がフルクトースとグルコースの両方の感度に影響を与えている可能性が考えられる。そこで今後、5個のGr64欠失系統の唇弁の味細胞からグルコースとフルクトース刺激に対する神経応答を電気生理学的に記録し、どの遺伝子の欠失がフルクトース感度に影響を与えるのか明らかにする。 また、遺伝子欠失系統とフルクトース低感度系統のF1を用いた味覚嗜好性テストでGr64bがフルクトース感度に関わっていることが示唆されたが、フルクトース低感度系統と高感度系統の味覚感覚器でGr64bの発現量に差があるのかQ-PCRで調べる。特に、フルクトース低感度系統は唇弁の味覚感覚子を高濃度のフルクトースで刺激した場合でも、味細胞からの神経応答がほとんど見られなかったので、フルクトース感度の異なる近交系系統間で唇弁のGr64遺伝子の発現量を調べ、Gr64遺伝子ファミリーの唇弁での発現量とフルクトース感度の関係を明らかにする。 これらの成果は今後論文にまとめ投稿する予定である。論文投稿後は、フルクトース以外の糖の味覚感度に自然集団内に遺伝的多型が存在するのか調べ、それらの原因遺伝子を同定する。
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