2015 Fiscal Year Annual Research Report
現代アラブ君主制小国家群の体制維持メカニズムと脆弱性の動態的研究
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15J04563
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
渡邊 駿 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 現代中東地域研究 / 君主制 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究の具体的内容】 本研究は、現代アラブ君主制諸国のうち、規模の小さな諸国家(以下、現代アラブ君主制小国家群とする)の体制維持メカニズムと脆弱性を、通時的な比較研究によって明らかにすることを目的とする。この目的を達するため、本年度はこれまでの研究成果として、現代ヨルダン・ハーシム王国の体制維持メカニズムに関する研究成果の発表、及び比較研究のためのフィールド調査を行った。前者の発表に於いては、一般に権威主義体制として理解され、その領域の不安定性・君主制的要素には目を向けられていなかったヨルダン王国について、同王国が国際環境からの影響を強く受けながらも、現代の政治体制及び君主制として用いることのできる独自の資源を活用しながら、政治的安定を保とうとする様相を明らかにした。後者については、平成27年8月6日から10月20日の期間、現代アラブ君主制国家諸国に赴き、文献収集・研究機関や市民団体における聞き取り調査を行った。 【研究の意義・重要性】 従来、アラブ君主制諸国は独裁体制の一類型として研究対象とされてきた。このことはアラブ・イスラーム世界の現代国家であり、君主制という特殊な形態をとる国家としての、アラブ君主制諸国の特質に対する着目を欠き、これら諸国の政治体制の実像に十分に迫ることができていなかった。本研究は独裁体制という側面を出発点とするのではなく、アラブ君主制という地域的側面を出発点にこれら諸国を分析することにより、この問題点を克服しようとする点に意義を有する。さらに、本研究のとる現代アラブ君主制小国家群という比較の視座は、従来のアラブ君主制諸国の認識枠組みである、産油国・非産油国という二分法に再考を促し、より多角的な視点からこれら諸国を論じる可能性を与えるという点にも意義を有する。以上のように、本研究の対象地域の内実をより精密に明らかにすることが本研究のもつ重要性である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度には、これまでの研究成果について積極的に発表をおこなうと同時に、研究対象地域において比較研究のためのフィールドワークを展開した。研究成果の発表としては、日本中東学会年次大会での口頭発表、2度の国際会議における口頭発表を行った。これまで主要な研究対象としてきたヨルダン王国に関する研究に加え、比較研究のための新たな視座についての議論を深めることができた。フィールドワークでは、現代アラブ君主制国家諸国(ヨルダン・モロッコ・バハレーン・カタル・アラブ首長国連邦・オマーン・クウェート)で8月~10月に文献収集・聞き取り調査を行った。そこでは貴重なアラビア語文献を収集したほか、各国の研究機関でも有用な資料を入手することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は本研究が対象とする「アラブ君主制小国家群」をマクロな視点から捉えようとする試みに力点を置いてきた。対象地域全域を対象とした広域のフィールド調査や、アラブ君主制そのものを捉えようとする検討作業がこれにあたる。後者については、2回の海外学会報告においてその議論を深めてきた。具体的には、君主制と非君主制とを区分する本質的な差異として、統治者の地位の継承という問題を検討したほか、依拠する体制正統化原理の相違という問題の検討を行った。
次年度はこのマクロな視点を活かして、アラブ君主制各国のミクロな事象を捉えようという試みに取り組んでいく。具体的には、アラブ君主制小国家群のそれぞれが有する歴史的な初期条件の検討を行いながら、それに基づいた政治体制の編成のあり方を明らかにする。各国レベルでの研究蓄積を進め、アラブ君主制小国家群を単なる独裁体制として捉えるのではなく、アラブ・君主制・小国家という地域的・形態的固有性の観点から捉えることの重要性を提起することが来年度の研究上の課題である。
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Research Products
(4 results)